社会に出て役に立つ リーガルマインドを養おう。
暗記ではなく、いかに解釈するかが法学の醍醐味
―民法は条文が多いと言われますが、法律学科ではすべてを学ぶのですか?
確かに民法は非常に条文が多く、第1050条までありますが、本学部では民法をI~Vに分けています。さらに「民法I」に入る前に「民法入門」や「法学入門」という科目があり、基本的な知識を身につけてから、より専門的な勉強に入るようにしています。民法は法律を学ぶ上で、基礎になる分野なのでぜひここをしっかり押さえてほしいですね。
―そんなに範囲が広いのですか。手強い感じが・・・。
よく誤解されるのですが、民法に限らず法律の勉強は条文を暗記することではありません。例えば交通事故に適用される規律はこう書かれています。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(民法第709条)。どこにも「交通事故で車をぶつけたからお金を払いなさい」とは書いていない。このように抽象的な条文を読み解き、解釈するのが法律の勉強です。
―暗記ではなく解釈。つまり考え方を学ぶのですか?
そうです。受験勉強には必ず一つの解答があります。けれど、法律の読み方はいろいろあり、正解は一つではない。人によって読み解き方が違うので、授業では一つの問題に対してA説、B説、C説と複数の解釈を扱うこともあります。この中に正解はなくても、良い解釈というのはあります。どの解釈を採用すると人々にとって良い結果を招くのか。社会に適用されるルールですから、それによって世の中が良くならなければならない。どれが最善策か、自分の考えを持って説明する力が問われます。
―そのために判例を読むことも大切だと。
その通り。条文を読み解くのに、判決などを知っておく必要はあります。ただ判例を参考にするだけでなく、それがいろいろな立場の人にどういう影響を与えるか、考えるのが法学部の学生に求められていることです。
民法とは、公平を目指すルール
―民法が私たちの暮らしに関わるルールなら、普段から結構関係している?
実感がないかもしれませんが、意識していないだけで私たちは普段から民法に従って行動しています。ひとり暮らしをしている学生ならアパートの賃貸借契約、友人から借りた自転車で事故に遭った場合の責任の所在、こういったことも民法が定めるところです。
―民法の役割は身近で、とても大きいのですね。
契約、婚姻、相続など扱う範囲は非常に広いのですが、結局のところ民法とは人と人との関係において公平を目指すルールだということです。一つのケーキを兄弟で分ける時、目の前にいる兄弟だけで考えて良い?不在の兄弟がいる場合はどうする?分けた結果によって後の兄弟や家族の関係等、問題は生じない?一つの問題を解決しようとする時、いろいろな利害関係を頭に入れ、心配りをするのが民法の視点。民法を学ぶことはこうした力を養っていくことだと言えます。
―その視点はいろんな場面で使えそうです。
「民法学は人間学だ」と、私が教わった先生はおっしゃっていました。民法を学ぶことは、空虚な条文操作技術を身につけるだけでなく、抽象的な理論の背後にさまざまな想いをもった生身の人間がいることを念頭に、それでいて一歩引いた視点で何が公平かを問うものだと思います。この力は目には見えないので、なかなか実感できないかもしれません。けれど法学を学んだ人なら、問題点を間違わずに捉えることができ、解決に向かってきちんと論理立てて他者に伝えることができるのではないでしょうか。
―法律の勉強は、人間的な成長にもつながっていくのですね。
私はそう信じています。法律の学びは考える力を身につけるのに役立ちます。大事な情報を見逃さず、事実を整理して問題の所在を見極める。そこに適応されるべきルールを見つけ出し、当てはめるとどうなるのかという流れを学んでほしい。未知の問題に対応できる能力を身につけ、社会で大いに活用してほしいです。
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