「地域研修」は 鉄道に乗って。
通学や買い物で日常的に使う「交通」。それを経済学の視点で見てみようというのが、藤田先生が専門にしている「交通経済学」です。ゼミ単位で地域づくりの活動を現地で体験するプログラム「地域研修」では、「交通と観光」をテーマに道内外へ。子どもの頃から鉄道が大好きだったという先生のように、自分の興味・関心を突き詰めるチャンスが広がります。
経済学の視点で見る「交通」。
ーー先生が研究されている「交通経済学」は、どんな学問なのでしょう?
要は、経済学の考え方を用いて「交通」の分野を見ていくということ。交通は身近なものですが、それを経済学から見ると、例えば需要の在り方は派生的需要と本源的需要という大きく二つに分かれていて、交通は基本的には派生的需要です。学校に行くという本来の目的があって、その目的を達成するために付随的・派生的に生まれてくる需要ということです。でも最近は、本源的需要も見過ごせない。交通機関を利用すること自体に意味があるということです。私自身もそうですが、「鉄道に乗るのが好き」という目的であれば、それはまさしく本源的需要。それを観光資源としていく動きがあるので、「観光列車が沿線地域と鉄道事業者にもたらす効果」という私の研究テーマにつながっています。沿線地域と鉄道事業者の関係性を踏まえた上で、両者がwin-winの関係になるメカニズムを明らかにするという研究です。
ーー鉄道事業者には、鉄道以外の事業もありますよね。
JR北海道なら札幌ステラプレイスなどがそうです。鉄道以外の事業を行うのは、鉄道の需要拡大や外部経済の内部化のため。鉄道が便利になると、鉄道事業者とその輸送サービスを利用するお客さん以外に、商業施設などの売り上げにも影響します。それを内部化するために、沿線の商業施設を自社で囲い込むわけです。これまで日本の鉄道事業はそういう仕組みでやってきたので、鉄道事業が苦しい時の稼ぎ頭までコロナ禍で厳しくなってしまった今、日本の鉄道事業者は大変な状況になっているといえます。
ーー鉄道に関しては、厳しいことが多いようですが。
でも、鉄道事業とは何かという本質が見えてきたと考えれば、必ずしもマイナスではないかも。これは経済学的にも言えることですが、鉄道事業というのは本来、もうからなくて当然なんですよ。コロナ禍前、日本は大都市圏のみもうかってはいましたが、それはものすごく人口が多くて通勤ラッシュがあるというとんでもなく特殊な状況があったから。ヨーロッパでは鉄道事業への公的支援は当たり前で、お客さんが多い所に関してのみ市場経済みたいに自由にどうぞ、というやり方です。日本の場合はそうではなく、たまたま成功した大都市圏の事例を全国一律に当てはめてしまった。だったら今こそ、海外の在り方や日本のこれまでの幻想みたいなものを見つめ直すいい契機になるんじゃないかと考えています。
学生主導で現場へ。
ーー「地域研修」ではどのような活動をするのですか?
今年度の地域研修は、1部ゼミは秋田県へ。コロナ禍で一旦は延期になりましたが、状況が落ち着いた時期に行ってきました。秋田内陸縦貫鉄道という第三セクターのローカル線が観光列車に力を入れているので、どんな観光資源があるかを事前に調べて実際に乗車。途中下車しながら観光資源がどのように機能しているか、潜在的な観光資源はないかなどを探ってきました。2部ゼミは道内で、沼田町へ。JR石狩沼田駅がある留萌本線は廃線問題を抱えているのですが、沼田に関わる鉄道ミュージアム構想が動き始めたんです。そこで、鉄道資源を調査し、どんなコンセプトで訴求力のあるミュージアムを形成していったらいいのかを考えました。コロナ禍で現地での研修を中止にしたゼミもあった中、私たちが実施できたのは貴重な経験になりました。例えば秋田では貸切列車のキャンセルが続出したそうですが、それでもいかにもがいてやっているかというところが、学生たちに少しでも伝わってくれれば。制約条件下での最適解を試行錯誤しながら見つけにいくというのは、この状況下で学生生活をいかに有意義にしていくのかにもつながるはずです。
ーー先生のゼミは今年度からスタートしたのですよね。方針を教えてください。
グループワークがベースです。私の社会人経験をもとに、協調して動く練習をしてほしいという思いからです。そして、学生主導がモットー。また、本学は北海道出身者が多いので、地域研修ではむしろ道外の事例に触れてほしいと考えています。観光は北海道の主力産業ですが、私の研究対象である観光列車に絡めていうと、沿線地域の住民や団体が観光列車と密接に関わるような取り組みは最近やっと力を入れ始めたレベル。北海道から離れていろいろな事例に触れてみて、それをいずれ北海道にフィードバックできればと思っています。
ーーゼミ生はどういう興味を持っているのでしょう?
鉄道マニアの受け皿にはなっています(笑)。鉄道に興味がなくても、鉄道を観光資源として見ている人がいるのはなぜだろうという問題意識を持った学生もいます。「交通と観光」という広めのテーマなので、観光に興味があるとか、観光には確かに交通が必要だと思って志望したという学生もいます。
ーー先生自身もご自分の興味を突き詰めて、現在に至っているようですが。
本当に、そうなんです。大学卒業後、幼稚園の頃からの夢を叶えて鉄道会社に就職して車掌を経験。ただ、鉄道と地域活性化をテーマに卒論を書いた時に研究の面白さに気づき、やっぱり研究がしたいと会社を辞めて大学院へ進学し、今ここにいるわけです。「好きこそ物の上手なれ」といいますが、皆さんも大学では自分の興味・関心のあるテーマを学術的な視点で見て、追究できます。それは、とても楽しいものです。
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