03
25 2022

「人の役に立つこと」。 それが研究の最終目的。

工学部生命工学科 鈴木 聡士 教授

学生それぞれの柔らかな発想や素朴な疑問を、鈴木先生の研究室では「研究」へと発展させていきます。脳波測定やデータマイニングなどの手法を活用して、人の考え方や価値観などを数字で分析することで、幅広い分野の問題解決策を提案。「工学分野の研究の最終目的は、人の役に立つこと。よりハッピーで快適な生活につながる方法を考えていきましょう」。

素朴な疑問が研究へ。

ーー先生の研究は、身近なことがテーマになっていくのですね。

そうですね。私は、人間の意識や生体の情報を収集し、そのデータを解析して特徴や傾向を分析することで、日常の生活環境の改善や方策づくりに生かす方法を考えています。そうした研究の一つが、「長距離運転時のエナジードリンク飲用による眠気緩和の効果」。そもそもこの研究は、「エナジードリンクって本当に効くの?」という疑問が、雑談の中で学生から出てきたのが始まり。私の研究室は、4年次の卒業研究のテーマを自分で考えるのが特徴で、まずは興味を持っていることをいっぱい挙げてみます。そうすると、こういうアイデアが出てくるんです。バスの居眠り運転事故が相次いだ時期だったこともあり、眠気緩和に効くなら長距離移動が多い北海道では価値ある研究になるので、やってみることにしました。

ーーどういう分析方法を使うのかも、研究では重要なことですか?

ええ。研究として信頼性があるかどうかが重要ですし、ここは工学部ですから、数字でしっかり客観的に示せるようにしなければならない。この研究の場合、本当に効いているのかを評価する方法として、一つは脳波を使いました。脳波には眠たい時はシータ波、リラックスしている時はアルファ波、集中している時はベータ波が多く出るなどの特徴があるので、その人のその時の状況が数字で分かります。もう一つは心拍。それと、眠気の尺度を明らかにした過去の研究があったので、それも加えて三つの方法で分析しました。結果として、エナジードリンクは眠気緩和に効果があると分かりました。実験の際には、本当に運転をするわけにはいかないので、どう安全確保しながら再現できるか学生と試行錯誤し、ドライビングシミュレータのゲームを活用。そんなふうに、信頼性をできるだけ高めるための工夫をみんなで議論し、練り上げていくスタイルで研究を進めています。

ーーテーマに合わせて、研究の仕方も考えていくのですね。

ほかにも、意識調査やデータマイニングの手法を活用して人の考え方や価値観などを数字で分析することもあります。大きく言うと私は、人の意識や生体のデータをうまく取り扱って、こういう時はこういうことをするとみんなにとってハッピーだと数字で示し、より快適な生活を送るにはどうしたらいいかを考えているわけです。

ーー「人にとって有益なもの」ということが大切な視点でしょうか?

ゼミでは、それを明確に打ち出しています。エナジードリンクなら効き目が明らかになっただけで終わりではなく、その結果、どうするとより良くなるのかがポイント。人の役に立つということを意識していかないと、研究の価値がなくなってしまう。目的と結果の有用性を意識しながら進めていくことを、とても大事にしています。でもこれは、決してすべての研究に求められるのではなく、生命工学科でもバイオ系の分野では必ずしも結果がすぐに役に立つのではなく、それが何かに応用されたりして最終的には結びつくというもの。ただ、私たちが扱う情報やデータマイニングは工学分野なので、直接、役に立つことはすごく大事です。この学科にはいろいろな分野の専門家がいるので、いろいろな価値観に出合って視野を広げられるのも良さですね。

厳しさと楽しさが成長の糧。

ーー卒業研究のテーマを自分で考えるのは、学生にとって楽しみなのでは?

アイデアを出す難しさはありますが、学生としては自分の興味・関心があることを研究にできるので主体的に取り組みます。興味・関心を大切にしつつ、研究として成立させるにはどうするか、そのサポートは教員の大事な役割になります。音楽が好きな学生は、集中力を高めるにはクラシックがいいといわれるけれど、自分の好きな音楽の方がいいんじゃないかと考えて研究に取り組みました。テーマを就職と絡めることも少し意識していて、例えば北海道警察を目指していた学生は交通安全に興味を持って、運転していて眠くなった時、コーヒーやエナジードリンクよりラジオドラマを聞くと効果が出るのではという研究をしました。

ーー1年間にわたる研究活動で身につくことは?

答えのない問題に対して、自分で考え、試行錯誤を繰り返しながら研究し、解決策や結論を導く。社会に出た時にとても重要になる、そうした能力を身につけられると思います。卒業研究は社会に出る直前で、学生が大きく成長できる大事な機会ですから、できるだけいい1年にしたいといつも考えています。うちの研究室は代々の卒業生と交流があり、卒業しても一生つながれるという意味では、研究室はすごく価値があると思います。人のネットワークは一番の財産ですから、大切にしています。大学院生も毎年のように入ってくるので、学部生は先輩に経験を踏まえたアドバイスをもらえますし、私には話しにくいことも話せる。大事なんです、大学院生の存在も。

ーー卒業研究には、ワクワクしながら取り組んでほしいそうですね。

研究は、楽しいです。とはいえ、思い通りの結果が全然出ないとか、仮説とまったく逆だったとかも、よく起こるんですよ。それでも、ここまでのレベルに達しなければという学問的な厳しさをしっかり持ち、一方では面白いな、新しい発見ができたなとワクワクしてくれるのがすごく大事です。厳しさやつらさを成長の糧にしつつ、楽しみながら研究に取り組んでほしいと思います。

工学部生命工学科 鈴木 聡士 教授
[専門分野]情報数理、データマイニング、環境・エネルギーシステム、都市・地域・交通システム [主な担当科目]環境・エネルギーシステム論

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