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05 2022

<TOPIC人文学部> 歩く、見る、聞く。 そこにしかない学びを求めて。

人文学部は、世界遺産を通して人文学を学ぶさまざまな取り組みを行っています。その一つの「文化遺産特別演習」では、日本各地にある世界遺産の周辺で5泊6日の研修旅行を実施。「歩く、見る、聞く」という主体的な学習から、日本文化とその世界的な意義について理解を深めることが狙いです。新型コロナウイルスの影響で、残念ながらこの2年は中止となっていますが、2019年度に「瀬戸内の環境・文化と戦争の歴史」をテーマに広島・山口方面で実地研修を行った学生の中から3人に、研修中の楽しかった思い出や成果について話してもらいました。 ※「文化遺産特別演習」は感染状況を考慮の上、2022年度以降、開講再開を予定しています。

人文学部1部日本文化学科3年 松平 純香(北海道札幌西高校出身)
人文学部1部日本文化学科3年 宮原 愛奈(北海道恵庭北高校出身)
人文学部1部日本文化学科3年 吉岡 さなみ(札幌日本大学高校出身)

【2019年度「文化遺産特別演習」研修日程】

第1日 移動(新千歳空港-羽田空港-広島空港-大久野島)
第2日 大久野島巡見・移動(大久野島-呉)
第3日 呉市巡見・移動(呉-広島)
第4日 広島市巡見
第5日 移動(広島-宮島)・宮島巡見・移動(宮島-岩国)
第6日 岩国城下町巡見・移動(岩国-羽田空港-新千歳空港)

事前学習-実地研修-レポート。

–「文化遺産特別演習」を履修しようと思ったきっかけを教えてください。

松平】 広島の原爆ドームや宮島など、一度は行ってみたいと思っていた所に授業として行けることに引かれました。きっかけがないとなかなか行けないだろうし、せっかくなら旅行だけではなく学ぶこともできるこの機会に参加してみようと思いました。

吉岡】 私も、以前から厳島などがある広島に関心があったんです。それで、今回の研修先が広島方面だったので気になって、軽い気持ちでまず説明会に参加しました。そこで話を聞いて、世界遺産を自分の目で見られること、大久野島という自分が知らなかった場所に行けることに、興味をかき立てられました。

【宮原】 率直なことを言うと、私は旅行が趣味なので、旅行ができて単位も取れるなら一石二鳥だなと思って(笑)。もう一つの理由は、母が長崎出身なので、幼い頃から戦争や原爆の話を聞いていて、日本の最初の被爆地である広島にも行ってみたかったんです。個人的な旅行と違って、事前学習としてアニメ映画を見たり、関連する本を読んだりして、自分から学ぼうという主体的に姿勢ができた状態で行くことになるので、経験や学びの深みが違ってくるだろうなと思いました。

–研修にはテーマを設定して臨み、レポートにまとめたそうですが、それぞれのテーマは?

吉岡】 戦時中に日本軍が毒ガスを製造していた大久野島を取り上げて、初めは島の現状についてレポートにまとめようと思って行ったんですが、毒ガス資料館を見学してみると、ちょっと違うなと感じて。もっと毒ガス兵器のことや残留化学兵器について調べたいというふうに、気持ちが大きく変わりました。やっぱり実際の展示物には、すごく訴えかけてくるものがあったんです。自分の想定より、もっと重いというか。体験していないことなので、どうしても戦争を過去の出来事として捉えてしまうところがあったんですが、資料館で見たものには事実の重みみたいなのがあって、それを叩きつけられたことでレポートの方向性が変わりました。 

【松平】 私は、世界遺産である宮島の厳島神社をテーマにしました。事前学習でいろいろと調べていて、厳島神社の大鳥居について書こうと思っていたのですが、大鳥居がちょうど修理工事中で。ネットで覆われていたため、実物を見ることができず残念でした。とはいえ、現地のガイドさんに話を聞けて、とても参考になりました。例えば、宮島では血を流してはいけないから出産の時は島外へ行くと聞き、いかに神聖な場所として存在してきたのかということを実感しました。事前に調べてはいても分からなかったことを、現地の方の言葉で直接、聞けたのは貴重な経験でした。厳島神社は潮の満ち干で景観が変わるので、ぜひ見てみたいと思っていたんですが、今回は宮島でほぼ1日過ごす日程で、希望通り干潮時と満潮時のどちらも見ることができました。

【宮原】 私は、原爆にさらされた人々の様子と平和とは何かを改めて考えることに焦点を当てました。その中で自分で掲げていたテーマが、生きた証言に触れること。リアルな資料を見たり、現地の人の話を聞いたり、その場でしか得られないものを持ち帰ってレポートにまとめたいと思っていました。ただ実際は、平和記念資料館の展示物などを通していろいろな情報は得られたものの、現地の人にこちらから話しかけるのはためらいがあって。それでも、被爆者であるガイドさんから経験を踏まえた話を聞いたり、爆心地近くの小学校の資料館を見学して担当の方に説明をしてもらったり。それによって実感を伴った考えができるようになり、レポートにも生かせました。

経験は新たな気づきや成長へ。

—研修を経験して、自分に影響があったと思えることはありますか?

宮原】 生きていることに、ありがたみを感じるようになりました。あの時代に生まれた人たちのことを考えると、平和な時代に生まれて良かったとすごく思います。広島へ行って、平和教育がこちらとはまるで違うことにも気づきました。平和記念資料館に展示されている黒焦げの三輪車を見て、小さな子どもたちが「伸ちゃんの三輪車だ」と言っていたんです。私は全然知らなかったけれど、子どもたちはそれがどういう遺品なのかを分かっている。すごいですよね。平和教育って大事だなと思いました。私も周りの子どもや自分に子どもが生まれたら、そういうことを伝えていきたいなと思っています。

【松平】 研修に参加したことを通して、戦争について考えることが身近になったような気がします。この間も戦争に関連した映画があったので、一人で見に行ってきました。これまでは、戦争を辛い過去としてあまり直視できないというか、深く知ることが怖かったですが、今はちゃんと向き合うべき問題として考えるようになりました。 

【吉岡】 私は、戦争犯罪についてより興味を持つようになりました。大学の図書館で本を探したりして、戦争における負の側面などをすごく調べるようになりました。以前から気にはなっていたので、テレビのニュースなどで出てくると、スマホで調べたりはしていたんですが、ああそうなんだで終わっていました。それが今は、もっといろいろな資料を調べて、もう少し深く知りたいと思うようになりました。

—後輩の皆さんに、この研修をおすすめするとしたらどんなところでしょう?

吉岡】 まず、個人的な旅行とは全然違って、現地にある情報を受け取るだけではなく、事前に自分で調べていたことが土台にある状態で現地の情報に触れるので、吸収できる知識の深みとかがすごく変わってきます。世界遺産を意識しながら見学したことでも、違う角度から考えを深められたように思います。それと、私はお城が好きなので、広島城と岩国城に行った時はようやく天守閣に登れた!とうれしくなりました。城内の展示物も、初めて見るものばかりですごく楽しかったですね。あとは、広島のお好み焼きやカキ、岩国で食べた鮎の塩焼きなど、各地の名産品をいろいろ食べられたことも楽しい思い出です。ぜひ、参加してみてほしいですね。

松平】 私も、本場のおいしいものを食べられたり、北海道では見られないようなきれいな景色をたくさん見られたり、とても楽しかったのはもちろんですが、個人的な旅行とは違う面白さを味わえるところがおすすめです。旅行をする時、どこへ行くかを調べるにはインスタなどでビジュアルを見ることが多いかと思うんですが、この研修では引率の先生や現地のガイドさんなどからいろいろな知識を自然と得ることができて、これまで知らなかったことを違う角度からたくさん知るいい機会になると思います。そもそも私はフィールドワークに興味があってこの学科を選んだところもあるので、研修を通してその経験ができたのも良かったです。

【宮原】 2人が言ってくれた通りで、なんといっても楽しいし、勉強のような形で行くと経験にも深みが増すと思います。私も、事前学習で歴史や状況をある程度つかんでいたことで、いい意味でのギャップを感じられたのが面白かったです。こういう感じかなと想像していたことと、現地で見たり感じたりしたことに違いがあると、それもまた面白い。研修の前も後も、楽しめる経験になるんじゃないかなと思います。

書籍や講演でも世界遺産にアプローチ。

ほかにも本学部では、世界遺産に関連した活動を行っています。
2020年9月には、『世界遺産とは何か? さまざまな「物語」を読み解く』(マイナビ出版)を出版。本学部教員8人が参加してチームを組み、世界遺産に関する考察を入り口に、人文学の魅力を知ってもらいたいという思いを込めて刊行しました。教員それぞれの専門分野から世界遺産を取り上げ、高校生の皆さんにも関心を持って読んでもらい、世界遺産との向き合い方について考えてもらえる内容になっています。
また、本学部教員の研究成果を広く社会に還元するイベントとして「人文学の挑戦」を開催。2021年7月の第25回では、この本の執筆に加わった2人の教員が「世界遺産を読み解く-人文学への招待-」と題してオンライン講演会を行いました。高校の世界史や日本史の教科書の説明よりも深い学びに触れる機会として、道内各地から参加の申し込みをいただきました。
本学部は今後も、さまざまなアプローチで人文学の魅力を発信していきます。

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