<TOPIC工学部建築学科> 自分たちの「頭」と「手」で 石狩沼田駅をリノベーション。
本学と沼田町の包括連携協定を土台に、建築学科では岡本浩一研究室を中心として空き家のリノベーションを行い、まちづくりへの貢献を目指す活動を展開してきました。2021年度はJR北海道の理解と協力を得て、石狩沼田駅リノベーション・プロジェクトを実施。駅舎のリノベーションについての提案から改修作業まで、岡本研究室に所属する学生10人が協力して取り組みました。リーダーの鉄川さんと、設計を担当した塩谷さんに活動を振り返ってもらうと、コロナ禍で予定通りに進まないことが多かった中でもできる限りのことを実践し、「これから建築に携わっていく上での貴重な経験を得られた」と話してくれました。
工学部建築学科4年 鉄川 結(市立札幌藻岩高校出身)
工学部建築学科4年 塩谷 拓希(札幌光星高校出身)
考えが実物になり、使われる喜び。
–岡本研究室を希望したのは、どのような理由からでしたか?
【鉄川】 もともとあるものを生かして作るということに興味があったので、岡本研究室ではリノベーションに取り組めると聞いて希望しました。実際に現場に行き、作業を経験してみたいという気持ちもありました。
【塩谷】 僕は将来、設計の方に進みたいと考えていたのですが、大学生の段階の設計では案を考えるだけで足が地に着いていないような気がして、違和感を持っていました。それで、何かないかなと思っていた時に、リノベーションの実体験ができるこのプロジェクト知りました。しかも、岡本先生はまちづくりの分野も専門の一つとして扱っているので、そうした知見も得ながら設計を行う体験ができたら、自分の中でしっくりくるのかなと考えて研究室を希望しました。
–活動を始めた時の石狩沼田駅の印象は?
【鉄川】 2021年4月に沼田町へ行ったのが、今回のプロジェクトの最初の活動でした。役場へあいさつに行った後、駅舎の実測調査をしたのですが、その時に初めて駅舎を見ました。色があせていたり、サビが目立ったりしていて、古いなという印象でした。もう一つ思ったのは、駅としての本来の利用方法だけという感じだったので、人が集まったりできるような機能も持ったもっと使いやすい雰囲気の駅になったらいいなということでした。
【塩谷】 沼田町では、これまでにも空き家のリノベーションのプロジェクトが行われてきましたが、今回のプロジェクトでは初めて駅という公共施設が対象になりました。より多くの人たちの目に触れることになるので、リノベーションの結果がどんなふうに捉えられるのか怖いなという感じもありました。
–リノベーションは、どのようなスケジュールで進めていったのですか?
【鉄川】 まず、 2グループに分かれてリノベーション案を検討し、6月にプレゼンテーションを実施しました。当初は沼田町へ行って説明する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の時期と重なってしまい、町長をはじめ関係職員の皆さんにオンラインで2案をプレゼンテーションしました。その後、実現を目指す案が投票で決定されました。提案のグループ分けの段階で、同じような案にならないようにコンセプトは決めていて、1 案は沼田町に高齢者が多いことを考慮して、高齢者に特化した使いやすさなどを重視した設計。もう1案は、若い人や観光客を含めた一般の利用に向けた設計。ただ、提案はその後いろいろな修正があり、最終的には全世代向けの案になっていきました。実際の作業の1巡目は6月下旬の4日間。改修に向けてのさらに詳しい実測や施工方法の検討など、本格的な改修に向けて準備を進めました。沼田町に滞在中は、朝7時に起きて9時から作業始め、終わるのが18時頃。夕食後、その日の反省など1-2時間ミーティングを行うという毎日でした。
【塩谷】 作業中は朝から1日びっしり活動していましたね。設計担当だった僕は、プレゼンの段階ではコンセプト案のようなものだったのを、実際に改修を行うための詳細な設計図の形に持っていかなければならなかったので、学内でその作業も進めていきました。1巡目の時には、沼田町の大きなイベント「夜高あんどん祭り」で使われているあんどんの実測なども行いました。あんどんを駅の内装などに用いれば、町民の皆さんも親しみやすいだろうし、観光で訪れた方にも町の特徴をアピールできると考えて提案していたんです。ただ、最終的にはコロナ禍で実現できなくなり、残念でした。
–活動中、特に大変だった思い出というと?
【鉄川】 沼田町の町長をはじめ建設関係の担当の方たち、JR北海道の担当の方たちに、駅舎内で改修について説明や確認をする機会がありました。実際にその場所を見ながら、例えばここにベンチを置きたいんですが大丈夫ですか、といった確認を一つ一つしていったんです。確認すべきことは事前にまとめて、作業を迅速に進めるために、できるだけその場で答えをもらえるように準備していました。それでも、プロである皆さんに対して説明をして、必要なことは質問をして、というのは大変なことでした。
【塩谷】 僕は口下手なので、そこは助かりました(笑)。
【鉄川】 人と話すことは好きなのですが、専門的な話も多くて大変でした。ただ、いい経験になったことは間違いないです。JRの方からは、動線のことや安全面のことなど、駅の利用者に配慮した指摘が多かったです。そういうところが公共施設の難しさだなとも感じられました。
【塩谷】 僕が大変だったと思うのは、コンセプトを伝えるために画像処理をしたり、設計にCADを使ったり、コンセプト案から設計まで一人で担当したこと。設計はいろいろやってきた方なのでCAD(Computer Aided Design)は得意ではあったし、ソフトも使えたからなのですが。でもその分、実際に使われるものが出来上がった時のうれしさは大きかったです。設計したものが実物になるという経験は、大学生ではなかなかできないことなので。実物になると、やっぱり感動しましたね。おお、図面の通りだ!と。
現場でしか学べないこと。
–コロナ禍で思い通りにならないことも多かったようですが。
【鉄川】 そこはやはり残念でした。8月初めの2巡目後は感染拡大で沼田町へ行けなくなり、当初の予定より大幅に作業日数が減ってしまいました。時間が足りなくなったことで作業できる箇所が限られてしまい、やろうと思っていたところを全部は終えられなかったのは心残りになっています。それでも感染が状況が落ち着いた10月に最後の作業に行き、なんとかリノベーションを終えました。最後の作業で必ず終わらせなければならないことを事前に話し合い、外部の鉄骨などの塗り直しが途中になっていたので、そこを完成させることに重きを置きました。限られた時間の中で優先順位を決め、できる限りのことをと考えました。
【塩谷】 内装も壁やトイレのドアなどは色を塗り直したので、以前より明るい印象になったと思います。
–活動を振り返って、参加して良かったなと思うところは?
【鉄川】 駅舎の外見が明るくなって、遠くから見てもきれいな印象になったので、人が立ち寄りやすい雰囲気に少しでも変えられたかなと思いました。駅舎のような広い場所に自分でペンキを塗るというのも初めてだったし、そのための4mぐらいの高さの足場を組んだのも初めてでした。足場の組み方は、作業に協力していただいた建設会社の方に教えてもらいましたが、自分たちが乗るわけですから、ちゃんと組まないと怖いなということも実感しました。雨が降っている中、外で作業をしてびしょびしょになったことも。大学の授業では分からない、現場ならではの経験と学びがたくさんありました。
【塩谷】 大学の授業の設計では、自分で考えて図面を作って終わりみたいな感じですが、プロジェクトでは実際に沼田町の方と打ち合わせをしたり、業者の方に発注したり、研究室の仲間にも設計の考えを伝えたり。さまざまな実務的な経験ができて、すごく良かったと思っています。
–プロジェクトでの経験は、ほかの何かとつながっていきそうですか?
【鉄川】 私は卒業論文のテーマを「道内地方小都市におけるJR駅舎再生活用の可能性と課題」にしました。地方のまちには、人が集まったり、会話をしたり、関わり合いを持てるようなスペースが少ないと感じたので、JRの駅舎を生かした人の交流はできないかと考えていきました。今回のプロジェクトでも、当初の予定では駅舎内に人が集まって交流できるような仕掛けを企画していたんですよ。沼田町以外の駅もいくつか訪ねていろいろな事例に触れた上で、論文をまとめました。就職はハウスメーカーで、お客さまと会って話して、図面を書いていく担当です。私はやっぱり人と話すことが好きなので、会話を通してお客さまのやりたいことを実現させていく仕事を選びました。
【塩谷】 僕は、実際に検討が行われている真駒内駅前地区の再開発について、地元住民の意向に寄り添った再開発はできないかということをテーマに卒業設計に取り組みました。内定先は商業施設の設計などを手掛ける企業で、商業施設としての立場からまちづくりにも携われるような仕事です。公共的な意味合いもあるので、今回の経験が少しでも役立つといいなと思っています。
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