国際法の観点から 世界の問題に目を向けて。
加藤先生が専門としている「国際法」は、世界のさまざまな問題を扱う壮大な法分野。例えば、深海底資源の開発活動や宇宙空間・天体の利用にも、国際法の規律が及びます。ロシアによるウクライナ軍事侵攻によって、国際法への注目度がますます増している今、「世界の諸問題に対して、国際法の観点から見る目を身につけてほしい」と先生はいいます。
「国際社会の法」を学ぶ。
–「国際法」とは何か教えてください。
国際社会における、主に国家間の関係を規律する法。国際社会の法といった方が分かりやすいかもしれません。国際法学が対象とする問題は非常に広範囲に及びますが、私が主な研究対象としてきたのは、外交的保護権および国内的救済完了原則。国際法上の個人の法的地位や国家の国際責任に関わる法理論上の問題であり、国際法学の中でもとても地味な分野です。外交的保護権については、国家の国際責任が成立する場合、被害国が加害国に対して行う国際請求の理論上の根拠などを研究してきました。国内的救済完了原則というのは、外交的保護権の行使の要件なのですが、法的性格が手続規則なのか実体法上の規則なのかということが争われてはっきりしない難しさがあり、これについても学説や判例を調べたりしてきました。また、国際法の中心的な分野の一つである海洋法に関しては、他大学の国際研究者たちと共同研究を進めています。
–最近、関心の高い国際法に関するテーマはどんなものがあるでしょう?
広く国際法の分野でいうと、ロシアによるウクライナ軍事侵攻がなんといっても一番に挙げられるでしょう。2022年度の加藤ゼミを志望した学生の理由で最も多かったのも、この問題に対する関心です。この問題については、第2次世界大戦以来の大国によるあからさまな国際法違反で、ひょっとしたら国際秩序が大きく変わるきっかけになるかもしれないということから、国際法の研究者や先生たちも非常に注目しています。
–ゼミナールではいろいろなテーマに取り組めるようですね。
「『イスラム国』は国か? -自称『国家』と国際法上の国家」「北朝鮮に対しては国際法を守らなくても良い? -未承認国家の法的地位」「中国政府船舶による尖閣周辺水域での航行は『領海侵犯』? -領海における沿岸国の主権と外国船舶の無害通航権」「日本は難民鎖国? -難民の権利と難民認定制度」、などなど。ゼミでは1人または2~3人のグループで決めたテーマについて調べ、レジュメを作って報告してもらいます。レジュメの作成と口頭でのプレゼンテーションを通じて、社会に出てからも通用する文章表現力を身につけられるよう指導しています。一方で、加藤ゼミのモットーは「よく学び、よく遊べ」。コロナ禍以前は、懇親会やスポーツを楽しむ機会もたくさんつくっていました。勉学にいそしむだけでなく、良き友人をつくり、豊かな学生生活を送ってほしいと思っています。
–ゼミと講義では、どのような違いがありますか?
国際法は世界のさまざまな問題を扱う壮大な法分野ですから、講義では、その中からやるべき事項を押さえて学んでもらいます。ゼミでは、公務員志望の学生も多いので、国際法と関係する範囲の公務員試験対策にも取り組みます。難民問題や領土問題など、それぞれの学生の関心事に合わせて深く掘り下げますが、私の方から特定のテーマを設定することはしません。国際法の範囲内で、自分でテーマを見つけることも勉強です。
知識よりも考え方を。
–学生に期待するのはどのようなことですか?
法学部に入ったからには、さまざまな法分野を広く学ぶことを期待しています。いろいろな分野を学ぶことによって、よくいわれるリーガルマインドが身につきます。例えば民法や刑法の細かい解釈の訓練を積み重ねることで、法律的なものの見方が知らず知らず身についていくでしょう。同じ解釈でも、それぞれの法分野で、これが基本で、この場合はこれが問題となる、これは考えなければならない、これは考えなくていいという訓練をします。それぞれの分野で、そうした訓練を重ねていくわけです。知識の点からいえば、もちろん私にも、よく分からない分野の国際法があります。ですから、知識も必要ですが、考え方を身につけることが大切です。それが、社会人になってからの問題の見つけ方、整理の仕方、それらをうまく文章に表す、といったことにもつながります。まずは真面目に授業に参加し、定評のある基本書を精読する。分からないことがたくさん出てくるはずですから、ほかの文献を調べたり、教員に質問したり、コツコツ一つずつ理解を深めていってほしいと思います。
–国際法については、どのように考えてほしいと思われますか?
専門的に極めてほしいというより、時事問題について、国際法上は基本的にはこうだという判断がある程度できるようになってくれればと思います。今は国際法に関連するニュースが非常に多いので、漠然とでもこれはおかしいとか、これはこの点で問題だとか、そういうことが判断できるような「見る目」を身につけてほしい。国際法は国際社会を反映したもので、国家の合意で作っていくのですが、もちろん万能ではありません。結局は、世界のみんなが国際法を理解していけば、国際法の力もさらに発揮できるようになってくるのだと思います。
–もし国際法を専門に勉強したいなら?
国際裁判所の判例や文献などは英語が中心ですから、英語の力をつけること。そして、大学院に進学することをお勧めします。例えば、国連などの国際機関の職員になるには、修士の学位を持っていないときちんとしたポストに就けません。日本人の国連職員などは望ましい数より少なく、そうしたところで活躍する人材を世界も求めています。国際裁判の当事者になるケースは日本でもよく出てきていて、日本政府が対応しなければならないのですが、裾野がもっと広くならなければ十分に対応できる国際法の専門家が育ちません。学部で広く法分野を学び、大学院に進んで国際法に関する専門的な研究を経て、世界で活躍してくれることにも期待しています。
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