「政治」を学ぶと世の中の 「ちょっと先」が見えてくる。
政治の世界はどこか縁遠いイメージがありますが、消費税をはじめ、私たちの生活に少なからず影響しています。現代日本の政党政治を研究する山本先生によれば、政治学は「意思決定の科学」。政治学のフィルターを通して物事が意思決定されるプロセスを見ることで、世の中で今何が起きているのかを理解する手助けになります。
政治学のメガネで世の中を見ると…。
–さっそくですが、政治とは何でしょうか?
皆さんは政治と聞くと、「なんだか難しそう」「偉い人がやること」といった感覚かもしれません。でも実は、政治という営みそのものは、それほど遠い世界の出来事ではないんです。政治とは、いろいろな考えを持った人たちが集まって物事を決め、それを実行する営みです。例えば、友だちと一緒にご飯を食べに行こうとなった。Aさんは「ラーメンが食べたい」と言い、Bさんは「カレーがいい」と主張する。Cさんは「500円以内で食べられないなら行かない」と言い始めた。さあ、困った。そこで、みんなで話し合って、それぞれの意見をなるべく尊重しながら店を決めていく。これも一つの政治です。
–では、政治学とは何でしょうか?
意思決定には、人々の個性と、人々を縛るルールの相互作用が働きます。政治学は、そのように意思決定されるプロセスを観察し、また考察する「意思決定の科学」ということができます。
例えば、新型コロナウイルスが流行したときに政府は緊急経済対策として全国民を対象に一律10万円を給付しました。実は当初、「収入が減少した世帯への30万円給付」で一度は決まりかけていましたが、公明党から「一律10万円給付」を強く求める声があり、安倍総理(当時)は補正予算案を覆してまで一律10万円に変更しました。その背景に目を向けると、連立政権というメカニズムが影響していることが見えてきます。
現代政治学(1年生)の授業ではこうした事例を取り上げながら、「いま世の中で何が起きているのか?」「それにはどういう意味があって、これからどうなるのか?」を皆さんにお伝えしています。政治学というメガネを通して見たら、世の中はこんなに面白く見えるんだ。こんなにもわかりやすいんだというのを感じてもらえたらと思って講義をしています。
少し先の「未来」が見える。
–山本先生のゼミについて教えてください。
2年生から始まるゼミでは学生の皆さんが主役となって授業を行います。世の中で起きていることに対して、自分で調べ、疑問に思ったことを発表し、みんなで話し合って考えます。
例えばある年は、札幌市の冬季五輪招致やJR北海道の問題を考えました。また別の年には、日本の少子化問題やロシアのウクライナ侵攻について議論しました。それぞれ一見するとまったく違う話題のようですが、その根本がわかると実は地続きなんだということに思い当たるはずです。
–授業の形式について教えてください。
全体では25名ぐらいのゼミですが、まずは4〜5名の小さなグループに分かれて話し合い、その後でグループの意見を全体に向けて発表します。人前で話すことが苦手な人もいると思いますが、自分の考えをまとめて相手に伝えることは、授業だけではなく、おそらく社会に出たら誰にとっても必要とされる力でしょう。営業職はもちろんですが、事務職であっても組織内で円滑に仕事を進めるためにはコミュニケーション力が必要不可欠です。自分の好きなこと、得意なことだけではなく、自分が知らないことを勉強して伝えるという場面もたくさんあるはずです。ゼミはある意味でその訓練の場だと考えています。自分の考えをきちんと整理する、それだけではなく相手にわかるように伝えることが大切です。
そのときに意識してほしいのは、ある事象に対してその原因がどこにあるのかを考えることです。何かの課題に対して原因と結果を明らかにして、客観的に妥当な説を抽出できるかどうか。さらに、それをわかりやすく人に伝えられるかどうか。そうした能力は、政治学を通して培うことができると考えています。
–政治学の醍醐味とは何でしょうか?
先ほども申し上げたように、現代政治を学ぶことで世の中で起きていることの背景や意味が見えるようになってきます。私自身、年を重ねるにつれてその感覚が強くなりました。これまでさまざまなケースを見てきましたが、そうするとだんだん「次はこういうことが起こりそう」という予測が当たるようになります。ニュースで報道されていることの「ちょっと先」を感じられるようになるというのは、政治を研究する一つの面白さかもしれませんね。
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