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11 2023

「中の人」の事情も含めて 歴史を考えてみよう。

人文学部 片岡 耕平 准教授

片岡先生の専門分野は日本中世史。中でも、「不浄」という観念に注目して研究に取り組んでいます。例えば、女性が大相撲の土俵に上がることを許されない、葬儀に参列した帰りに「清めの塩」を手渡される。現代の私たちに関わりがあるしきたりに、「不浄」に由来するものがあります。研究成果などを入り口に、歴史を考える意味や魅力も見えてきます。

歴史的につくられた概念。

–先生は「不浄」をテーマとして研究されているそうですが。

人間・動物の死、出産、血を不浄とする観念に注目し、そこから当時の社会秩序の在り方と変遷を研究しています。不浄とは、汚い、穢(けがれ)というのと同じです。汚いという感覚は、たぶん普遍的に存在するもの。ただ、穢という概念は、ある一定のところで歴史的につくられています。六国史という日本の朝廷の正式な6つの歴史書を見ていくと、9世紀から穢という記述が明らかに増えます。法律的に明文化されたと考えられますが、なぜその時点だったのか。穢というのは、神社などで神様と接するときにこちらから持って行ってはいけないもので、ちょうど平安京という新しい都をつくる時期であったことから、神様たちと天皇との関係を改めて定義し直して、人間が守るべき礼儀も法律として決めたのだと考えられます。天皇というものを権威づけるための方法としても、つくられたのだと思います。

–現代のしきたりにも、不浄が由来となっているものがあるのですね。

大相撲の土俵や一部の宗教上の聖地とされる山に、女性であるという理由で入れない、といったしきたりがあります。葬儀に参列した帰りに「清めの塩」をもらって、家に入る前に体に振りかけるというしきたりもありますよね。いずれも、不浄の観念に由来するものです。もともとは平安京の貴族たちだけ守っていればよかったことが、全国で当たり前のようにしきたりになっていったわけです。なぜかというと、神社を通して広がっていったと考えられます。京都周辺の神社から始まって、神様たちが全国に勧請されていくとともに、神様のルールとしてそれぞれの地元で定着していった、ということなんだと思います。

–ほかに、これから研究していきたいテーマはありますか?

蒙古襲来が社会にどういうインパクトを与えたかに、興味を持っています。たぶん穢という問題とも密接に関わっていると思うんです。蒙古襲来を通して神様に助けてもらったという意識が全国に伝わって、神様との付き合い方として穢という概念が一気に広がる大きなきっかけになったと考えています。例えば青森の子守唄にも蒙古、高句麗を意味する歌詞が残っていて、すごく怖いものとして伝わっていたわけです。価値観などを共有する人たちが生まれてきたということでもあり、今でいうナショナリズムとか、国に帰属する意識みたいなもののルーツがあるんじゃないか、と考えています。歴史を考える意味というのは、今あるものがどうして今ここにあるのかを、過去から今に至る全体として明らかにすることではないかと思うので、その一つの例として取り組みたいと思っています。

過去は今とは違う。

—ゼミナールでは「吾妻鏡」を取り上げているそうですが、狙いは?

まず”日本流”の漢文に慣れてほしい。歴史学研究の基礎は史料をちゃんと読むことなので、読み方を学ぶとっかかりになるテキストといえます。日本の中世を象徴する武士という存在の歴史や在り方を感じてもらうことも狙いです。さらに、同じ時代を生きた京都の貴族の日記や平家物語など、いろいろなジャンルの史料が同時並行的にあるので、それぞれの特徴を比べながら目を通せるというメリットもあるかなと思います。ちなみに、2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の元ネタになっていますが、「吾妻鏡」では足りない部分を独自に補いながらちゃんと筋の通った話になっていて、ドラマとしてすごく面白いと思いますね。

–やはり歴史に興味があるゼミ生が多いのですか?

多いと思います。それで、3年次の演習では史料を読んでいるわけですが、4年次の卒業研究のテーマは意外とバラバラになっていく(笑)。4年間の集大成ということで、自分の納得いくものを選んでまとめてもらえればいいと思いますので、ジャンルは絞りません。ですから演習は、ある問いについて調べていくときに、どう動いて解決していくかという手続きの勉強といえます。自分の手・足・目を使って調べることを嫌がらずに、一生懸命やってほしいですね。学生は4年間の積み重ねでいつの間にか力がついて、卒業研究の論文を書けるようになります。最後に行う発表会では、論文を書けたことは一つの成功体験だから、社会に出てからも一歩ずつ踏んでいけばまた何かを得られるという教訓としてほしいと伝えています。

—改めて、「歴史」を学ぶ魅力を教えてください。

一つは、過去は今とは違うと知ることだと思っています。つまり、未来は今と同じではないということでもあり、自分が今、当たり前だと思っていることはたぶん変わっていくということ。多様化している価値観に柔軟に向き合うためにも、自分の当たり前を常に疑うことが必要だと思うので、その役には立つんじゃないでしょうか。ほかには、一般的によく言われる温故知新。過去を学べば役に立つというのもありますよね。自分のルーツ、アイデンティティの確認という要素も強いと思います。大学で学ぶ歴史は、高校までの歴史の勉強とはまったく違うものです。暗記したりするのは必要のないことで、自分なりの意味を何か見いだしてほしいなと思います。今まで何気なく与えられてきた歴史という物語がどのようにつくられているのか、「中の人」たちの事情も含めて知ってもらえればと思いますね。

人文学部 片岡 耕平 准教授
[専門分野]日本中世史  [主な担当科目]日本史概論Ⅰ、日本史特論Ⅰ

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