ミステリー小説から ヨーロッパの 歴史・文化を紐解く
仲丸先生が研究するのは、16・17世紀イギリスにおける政治と社会。特に議会が果たした役割に関心があります。担当するヨーロッパ史を扱う授業では、20世紀前半に書かれたミステリー小説をもとに、歴史や文化を紐解きます。歴史学は後ろ向きな学問ではなく、意外にも、未来について考える学問だと先生は説きます。
ミステリーに潜む歴史や文化を読み解く。
——先生が担当している「ヨーロッパ史概論I」「ヨーロッパ史特論I」は、どのような講義なのですか。教えてください。
まず「ヨーロッパ史概論I」は、高校までの世界史で学んだことを、さらに深く掘り下げるような授業です。百年戦争や宗教改革など、教科書に出てくるような歴史上の事件に関して、資料を配付し時間の許す限り解説します。高校の世界史と違い、大学で学ぶ歴史学はただ暗記するのではなく、その背景や意味を深掘りします。
「ヨーロッパ史特論I」は、アガサ・クリスティーのミステリー小説をTVドラマ化した『名探偵ポアロ』を題材に、近現代イギリスの社会や風習、文化を論じています。ドラマの中でポアロはさまざまな事件を解決しますが、謎を解く手がかりには社会や文化的背景が大いに関わっているのです。授業では前半でまずドラマを観て、後半でストーリーに出てきた事柄について解説しています。
例えばある1話では、「カトリック教徒だから離婚ができない」という前提が事件を解決する鍵となるのですが、そこからヨーロッパにおける結婚制度の歴史を日本と比較しながら解説します。また別の話では、殺人事件が起きて葬儀が執り行われるのですが、この場面を通して、お墓がいつから建てられるようになり、それ以前は死者はどう埋葬されていたのかなど、ヨーロッパにおける「死」の認識について考えます。また、大学を卒業するのにキャリアを築ける当てのない女子学生が登場する回では、ヨーロッパにおける女性の地位向上はいつ頃から始まったのかを話します。
原作者であるアガサ・クリスティーがこの小説を書いたのは1920年代~30年代にかけてです。このミステリーを通して、イギリス社会の近現代史について理解を深めてもらおうという授業を行っています。
——ドラマが教材になるのですね。学生の反応はどうですか?
評価は学期内に2回の小テストと各講義の後に感想や質問を書いてもらい、その点数を加算していきます。それらを見ていると、学生の反応は概ね良いと思います。
探求の過程で一生ものの力を磨こう。
——先生が取り組んでいる研究について教えてください。
ヨーロッパ史の中でも、16、17世紀のブリテン(イギリス)の政治社会について研究しています。特に議会が果たした役割に関心があります。イギリスは日本と同じ議院内閣制ですが、この時代の議員たちは、頻繁に選挙区を変更していることから、彼らには地方の意見を中央に伝達することが期待されていたわけではなかった、ということがこれまでの研究で見えてきました。つまり、今とは役割や目的が違っていたのです。
当時の議員は、地方の有力者や名士でした。彼らに議員という地位を与えることによって、地方の統治を安定させることが王権の狙いだったようです。議会が国政を主導する議会制統治は、中央政府と各地域社会との関係の維持、国民の統合において不可欠です。しかし誰もがSNSなどで意見を発信できる現代社会においては、議会を通じた政策決定は機能不全に陥りつつあります。この問題を歴史学的に考える上で有効な方法の一つが、議会制度発祥の地とされるイギリスの歴史に即して、この統治モデルの有効性と限界を示すことにあると考えています。
——そもそも、先生はどうして議員制度に興味を持ったのですか。
最初の関心は、中学時代です。1993年に自民党が政権を失い、いわゆる55年体制が終わりを迎えました。その時のインパクトは非常に大きかった。加えて、昔からシャーロックホームズなどのミステリー小説が好きで、イギリスにも関心を持っていました。高校の世界史で、議会制度の発祥がイギリスだと知り、大学で歴史を学ぶことにしました。
大学院では、議会制民主主義がどこから発展していったのかを知りたいと思い、17世紀のピューリタン革命に至る前の議会について研究しました。イギリスでは議員1人1人について、選挙区や当選回数、親族のことなど詳しい情報が伝記の集成として出版されています。博士論文では、その情報をデータ化して分析しました。
——中学・高校の時の興味が、今につながっているのですね。受験を検討される皆さんへのメッセージをお願いします。
歴史学は後ろ向きの学問ではなく、未来の人間を考えるための学問です。自分たちがどう生きていくかを考えるための学問でもあります。例えば、過去の災害に対する人間の対応を学ぶことによって、これから起こるかもしれない災害への対策について過去の知見を生かすことができるように。
大学は、高校までとは異なり、自分の関心に沿った学びを追求できる場です。直接、就職には関係ないことでも、他者と問題を共有し、ともに考えるためには資料の収集、クリティカルシンキング、プレゼンテーション、レポート作成などについて、一定のスキルが必要です。探求の過程で身につけた技能は、単なる知識とは異なり、卒業後の社会生活や人生のさまざまな場面で、きっと応用が利くはずです。これから進学する高校生のみなさんには、文系学部で唯一、卒業論文が必修となっている人文学部で、こうした能力を磨いていきましょう。
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