03
25 2024

歴史を鵜呑みにせず 自分で考え、検証してみる。

人文学部英米文化学科 大森 一輝 教授

アメリカ黒人の歴史を研究している大森一輝先生。黒人差別の歴史や、権利を勝ち取るプロセスだけでなく、その後に陥りやすい「カラーブラインド(人種無視)論」についても研究しています。「アメリカの人種差別を学ぶことは、日本における差別や格差に向き合い、変革を志すきっかけになると信じて、研究・教育を行っています」と語ります。

差別について考える。

–先生が研究されているのは、アメリカ黒人の歴史ですね。

アメリカの歴史は、黒人奴隷の歴史でもあります。またそれはアメリカ社会における、人種差別の歴史でもあるんですね。黒人奴隷だった人たちは、アメリカ社会の中で人種差別と闘い、権利や生活の向上を勝ち取ってきました。そうした側面に加えて、差別からの解放を求めた人たちが陥った、または陥りやすい罠である「カラーブラインド(人種無視)論」が、差別無視の自己責任論になってしまうプロセスを明らかにし、それを克服する方法を模索しています。

–カラーブラインド論とは?

「人種の違いをどうこういうのはナンセンスだ」となったときに、そこから一足飛びに「だから人種なんて無視すればいい」「みんな1人の人間として同じように見ればいい」という考え方になりがちです。でもそうなると、そこにある落とし穴に気がつきにくくもなるんです。実際に、人種の違いなんて本当に意味のないことなのですが、それでもそこに強烈な意味を持たせ、何百年もの間、それによって人を差別したり憎悪したりしてきた。実際に人種によって奴隷にされてしまう世の中があり、そこで積み重ねられてきた人種にまつわる意識、それに基づいて作られてきた社会の仕組みがある。そういった中で、「もう人種を気にせずに生きていきましょう」というのは気にしないでいられる側の傲慢な発想です。

人種差別に対して、これがあれば万事うまくいくという解決策はありません。例えば、奴隷制度に対する賠償論というのもあり、人種差別が積み重ねてきた負の遺産を是正するためにいろいろと考えられています。しかし、カラーブラインド論によって、そうした負の遺産をチャラにしてしまおうという発想ではいけないんですね。人種差別は気の持ちようではない問題なんです。

–差別という意識は、根深いですね?

講義ではアメリカの黒人奴隷を題材にしていますが、人種差別は決して他人事ではありません。特定の集団をひとくくりにして、そのメンバー全員が生まれつき劣っていると見なし、それは絶対に変わらないと決めつける、「○○人は、△△だ」という思考法を「レイシズム(人種主義)」といいますが、これは現代の日本においてもまん延しています。

例えば、札幌には海外からの観光客がたくさん来ます。学生の中には観光地や飲食店でアルバイトをしている人がいて、そこで接した外国人観光客がたまたまマナーを知らなかっただけで、「○○人はマナーが悪い」と、ひとくくりに決めつけてしまうことがあります。これは、偏見といわざるを得ません。国民性を安易に1人の行動と直線的に結びつけるべきではない、国民性というものの存在自体も疑うべきだ、ということを学生たちには伝えています。

アメリカの人種差別とそれに対する抵抗の歴史を学ぶことは、外国人だけでなく日本におけるさまざまなマイノリティに対する差別や格差に向き合い、変革を志すきっかけになるのではないでしょうか。

4年間で大人になる土台を構築。

–学生にはどういった学ぶ姿勢を求めますか。

私が担当する「アメリカ史概論」は、歴史を学ぶ授業なので、皆さんは暗記する授業だと考えるかもしれません。しかし、私は授業で聞いたことを鵜呑みにしないでほしいと思っています。私は私なりの物の見方でアメリカ史を伝えているので、それに説得力があるかどうかを判断するのは皆さんです。

受験勉強に慣れている皆さんには、なかなか理解しづらいかもしれませんが、客観的で公正中立な歴史というのは存在しません。過去にあった事実の中から、誰かが取捨選択したものが歴史として記録されてきたのですから、必然的に偏ってしまうのです。

だからこそ、きちんと納得できるかどうか、根拠があるのかどうか、資料をひも解き、厳しくチェックしなくてはいけないんですね。

–大学での学びを有意義にするためには?

大学での4年間は、大人になるための土台を作り上げる期間です。大学では常識を疑い、多様な考え方に触れてほしいですね。今の時代、大抵のことはインターネットで調べられます。それによって、私たちは何でも知っているんだと自分を過信してしまう。しかし、自分が知っていることだけが全てではありませんし、知っているつもりになってはいけません。そして、大学では知るだけでなく、自分で考えることを大切にしてほしい。多様な物事の見方があり、それを踏まえた上で自分の考えを持つ。確定できないこと、わからないことは素直に受け止める謙虚さも必要です。つまり、簡単にわかったつもりにならないことが肝要です。

–英米文化学科では多様な考え方に触れられますね。

そうですね。「英米文化」とあるように、ここは英語力だけを鍛える場所ではありません。教員の専門も、イギリス文学、フランス史、ドイツ語圏の文化など多様で、語学、文学、思想、歴史、環境まで幅広く国際的な思想を身につけることができます。

英語が使えるようになるだけでなく、英語を使って何を考え、何を伝えられるかが大事。そのためには、英語圏の社会が積み重ねてきた歴史なり、考え方なりをちゃんと踏まえられるかが問われます。ここでの4年間で、英語でも日本語でも、自分なりに考えられる力を獲得してほしいですね。

人文学部英米文化学科 大森 一輝 教授
[専門分野]アメリカ史 [主な担当科目]アメリカ史概論、アメリカ史特論

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