【経済学部トピックス: ゼミナールⅠ・Ⅱ】 能登へ、十勝へ 解決のカギは 現場にある。
担当教員のサポートのもと少人数で専門的な学びを実践するゼミナールⅠ・Ⅱが、いよいよ2年次からスタートします。宮島ゼミでは国際経済の視点から、アジア/日本/北海道の地域経済について調査・研究を行っています。宮島ゼミが大切にするのは現地へ足を運び、生の声を聞いて、具体的な提案に落とし込むこと。石川県の能登半島と十勝の清水町で調査・研究を行った二人に、2年間のゼミを振り返ってもらいました。
[ゼミナールⅠ・Ⅱ参加](写真左から)
経済学部 経済学科 教授 宮島 良明
経済学部1部 経済学科4年 糸瀬 寛人 (池上学院高校出身)
経済学部1部 経済学科4年 齊藤 皓大 (北海道清水高校出身)
震災半年前に能登の地域資源を調査。
——まずはゼミナールⅠ・Ⅱ(宮島ゼミ)について教えてください。
【宮島】テーマは国際経済です。特にアジアの地域経済を中心に研究します。特徴的なところでは、3つのゼミ活動を組み込んでいます。一つ目は国内調査です。2022年・23年は金沢大学と連携して能登半島の調査を行いました。二つ目は海外調査です。残念ながら新型コロナウイルスの影響もあって齊藤くんと糸瀬くんは参加できなかったけれど、例年タイを訪問し、ローカル経済を調査しています。三つ目は研究発表です。北海道学生研究会SCANの合同研究発表会に参加して調査・研究の成果を発表します。いうなれば他流試合です。
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北海学園大学の学生は9割が北海道出身で、就職先も道内が中心です。卒業後は、公務員として活躍する卒業生も多くいます。北海道で生まれて育ち、道内で働くとなると、北海道以外のことは関係ないと思ってしまうかもしれません。ところが決してそんなことはない。近年は北海道を訪れる外国人観光客が増えています。第一次産業の世界では道産品の輸出が注目されています。そのときに1ドルがいくらなのかを知らないまま海外との交渉はできません。これからはローカルな仕事ほど、国際経済や国際情勢をキャッチしていることが重要になります。ゼミでは足元の地域経済と国際経済の両方を見るという視点を大切にしています。
——糸瀬さん、齊藤さん、能登半島での調査について教えてください。
【糸瀬】能登半島へは2年と3年の夏休みにそれぞれ5日間ぐらいの行程で行きました。どちらも金沢大学の研究をお手伝いする形で、1年目(2022年)は農業、2年目(2023年)は観光をテーマに、地域資源の掘り起こしを行いました。2年目は中能登町の町並み保存を考えるワークショップに参加しました。地元の方のお話を聞き、実際に中能登町を散策して街歩きマップを作成。志賀町では地域の伝統的なお祭りでおみこしを担いだり、輪島市では地元の小学生と一緒に“地域の音”を採集するワークショップに参加したり。貴重な経験ばかりで能登半島がすごく身近になりました。
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【齊藤】瓦屋根が並ぶ町の風景も、輪島塗などの伝統工芸品も、土地の人の言葉の響きも、一つひとつが新鮮で、ずっと北海道にいたら知ることはなかったと思います。
——なるほど。能登半島を調査したからこそ得られた視点かもしれませんね。
現地へ足を運び、生の声を聞く。
——宮島先生、タイでの海外調査について教えてください。
【宮島】海外調査は1週間ぐらいの日程で主にタイのコミュニティ・ベースド・ツーリズム(CBT)の事例を調査します。CBTというのは地域の歴史や文化、産業、暮らしを守りながら観光資源として生かすツーリズム形態です。日本でも最近は訪日客の増加によるオーバーツーリズムが問題になっていますが、その解決策として注目されています。
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前回はスラーターニーという地域を訪れ、ウイークエンドマーケットの調査を行いました。調査だけでは息が詰まるので、川のクルーズを体験したり、ホタルを見に行ったりと、お楽しみ要素もあります。ホタルの光がクリスマスツリーみたいに瞬く光景は、ちょっと鳥肌モノです。
【糸瀬・齊藤】行きたかった……(涙)。
——道内での調査活動も行ったそうですね。
【齊藤】はい。十勝の清水町を調査しました。僕の実家は清水町で酪農をやっていますが、コロナ禍で学校給食がなくなって牛乳が行き場を失ったり、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で飼料が高騰したりして、経営が本当に苦しいという話を両親から聞いていました。「これ、なんとかできないか」と思ってゼミの研究テーマにしたんです。1年目は両親のほかに、町内で6次産業化を実践している酪農家をインタビューし、2年目は町が推進する「まちまるごとホテル」という民泊の取り組みを調査しました。
「まちまるごとホテル」は、ホテルや旅館といった宿泊施設を新設するのではなく、町内の古民家や使われていない教員住宅、さらには町民の家の空きスペースなどを宿泊場所として活用する取り組みです。これまで僕は、町づくりというと観光施設を新しく建てるとか、ホテルを誘致するといったことをイメージしていました。でも、それでは地元の人や産業と結びつきづらく、持続可能ではありません。「まちまるごとホテル」は住民を観光資源にしちゃおうという発想で、「あるものを生かす」点に可能性を感じました。それで研究のまとめとして、「まちまるごとホテル」と酪農を掛け合わせ、清水町で民泊し、飲食店で町の特産品を味わい、乳搾りなどの農業体験をアクティビティとして楽しむという、地域が一体となった6次産業化を提案しました。
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宮島ゼミの2年間は、能登でも、十勝でも、現地に足を運んで直接話を聞くという経験が、僕にとって新鮮でした。ニーズというのは、困っている人から生まれるものだと改めて実感しました。卒業後、社会に出ても生の声を聞くという姿勢を大切にしていきたいと思います。
【宮島】研究は机の上でやることが多いものですが、やっぱり本を読んだりデータを眺めたりしているだけでは見えないことがいっぱいあります。彼らはこのテーマでSCANの合同研究発表会に参加し、優秀論文賞を受賞しました。
ロシアのウクライナ侵攻が遠く離れた北海道の酪農経営に影響を及ぼすというのは、教室で講義を受けているだけではなかなか想像できません。でも現実に経済というのは、そういうつながりの中で回っているものです。そうした意味でも、非常に国際経済のゼミらしいテーマだったと思います。現場へ足を運ぶことの大切さを、これからもゼミや講義を通して伝えていけたらと思います。
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