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30 2022

テーマは注目のエネルギー資源 「メタンハイドレート」。

工学部社会環境工学科 小野 丘 教授

「燃える氷」とも呼ばれるメタンハイドレート。天然ガスを生産する新たなエネルギー資源とされ、世界中で大きな注目が集まっています。日本でもメタンハイドレートの開発促進事業は国家プロジェクトとして進められており、小野先生はその掘削技術について研究中。学生たちも4年次に取り組む卒業研究で、メタンハイドレートをテーマとして扱うことができます。(写真はグラウンドアンカーの実験装置)

エネルギー自給率向上の期待も。

ーー先生の研究分野について教えてください。

研究分野は寒冷地における地盤工学。地盤工学とは、我々の社会の基盤である道路・堤防・橋梁・護岸・空港・トンネル・地下構造物などの土木構造物における「地盤」や「材料としての土」に関する工学分野のことです。その中で、特に寒冷気候によって低温環境にある地盤を研究対象としています。地盤を構成する土の温度が0℃以下になると、土中の水分が凍結し始めます。その時、土の特性から0℃付近の水分の凍結による体積膨張以上に地盤が膨張して、地表面が盛り上がることがある。これを「凍上」といいます。凍上した地盤は構造物に力を及ぼして変形や破壊を発生させ、融解時には逆に地盤の強度が低下したり、沈下により構造物が変形したりすることがあります。そこで、寒冷地におけるこのような地盤工学上の特性による社会基盤への被害を防ぐために、設計技術や維持管理技術について研究しています。

ーー話題の「メタンハイドレート」関連の研究もされているそうですが。

「メタンハイドレート(methane hydrate)」は、水分子でできた「かご」の中にメタンの分子が閉じ込められた結晶(氷の塊)のことです。そのような水とメタンが結びついた物質は、高圧力で低温の条件で生成されます。地球上でメタンハイドレートが安定して存在できるのは、水深400m以上の海底と海底面より下の地層、極地の永久凍土層の中やそれより深い地層です。日本の近海底の多くの地点にも、メタンハイドレートは存在していることが分かっています。もし、このメタンハイドレートからメタンを取り出すことができたら。エネルギー資源の乏しい日本にとって長期的で安定的な天然ガス資源になり、エネルギーの自給率が上がる可能性もある。そこで現在、国のプロジェクトとしてメタンハイドレートの掘削技術を開発するため、複数のコンソーシアム(大学や民間企業などから成る共同事業体)が異なるアイデアを出して競い合っています。私はその一つに属して、室内実験や実大実験を進めているところです。

ーー実用化に近づいて来ているのですね。

そうですね。存在している場所は分かってきているし、実験段階は終わりつつあるので、具体的な技術開発の段階に入ってきています。とはいえ、例えばガスだけを効率的に採取して周りの土をどうやって環境が悪化しないように戻すか、それをどうやって地上に運ぶかなど、掘削、揚集、運搬に関するさまざまな技術が求められます。技術面のほかにも、漁業権の問題など考えなければならないことはまだたくさんあって、そう単純ではない。でも、そんなに遠い話ではないですよ、ここまで来たら。

実験は一大プロジェクトの一端に。

ーー卒業研究でもメタンハイドレートに関するテーマがあるそうですね。

一つは、メタンハイドレート掘削技術のための室内実験。我々のコンソーシアムは、大型の掘削機を海底に置き、掘削して真空で引き揚げるといった技術を考えていて、そのための研究の一端として実験に取り組んでいます。小さな土槽にメタンハイドレートに代わる物を入れ、羽根を回転させて真空で引っ張って取り出せるか、モデルを作って実験しています。もう一つは、メタンハイドレート模擬地盤の配合実験。実際のメタンハイドレートが入った地盤は、軟らかい粘土の中に氷の粒あるいは板が何層にもなっているというイメージに近いんですが、掘削するにあたってどんな強度を持っているか、どんな挙動をするかなどがまるで分からないわけです。それで、実際に海底にあるような強度と組成を持ったもの実験室内で作ろうと、模擬材料などの配合をどうしたらいいか決める実験をやっています。さらに、次のテーマの実験に向けた段取りも始めています。やらなければならないことは、まだまだあるんです。

ーー卒業研究を通して、身につけてほしいのは?

学生が研究室に配属されたらすぐに、卒業研究の提出・発表までの年間工程表を書かせます。何をしなければならないかを縦に、月日を横に書いて、いつまでに取り組むかを表にします。ただ、それはあくまでも計画ですから、途中で状況が変わったら変更すればいい。要は工程を自分で引いて、自己管理してもらいたいんです。社会に出ると、自己管理能力は絶対に必要です。ですから、たとえ遅れていても私からはできるだけ何も言いません。言ってしまうと、学生は言われるのを待つようになってしまうので。自分で目標を決めて、自分で目標を決めて、自分で管理する。計画を変更していって、目標を変えるのも構いません。卒業研究というのは、成果を求めているのではなく、プロセスを求めているんです。それぞれの能力に応じたプロセスで、どれだけ頑張ったかを我々は評価するわけです。小さな目標だとしても、一つでも達成できればいいんです。

ーー受験生の皆さんに、ひとこと伝えるとしたらどんなことでしょう?

私たちの毎日を支えている社会基盤には、人の生命と財産を守る公共性があります。その社会基盤の調査・設計・施工・維持管理を通して、社会に貢献する専門技術者をこの学科で目指してみませんか。今、土木系はものすごい売り手市場だということも、お伝えしておきます(笑)。

工学部社会環境工学科 小野 丘 教授
工学部社会環境工学科 小野 丘 教授 [専門分野]地盤工学 [主な担当科目]土質工学Ⅰ・演習、土質工学Ⅱ・演習、地盤・構造材料実験

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