03
27 2024

水を考える環境工学は まちづくりのキホン。 本来の土木工学がここに。

工学部社会環境工学科 安藤 直哉 准教授

「本学科は道内私学で唯一、上下水道や水環境を含む本来の土木工学を学べる学科」と安藤先生。一体、どういうことでしょうか?<br /> 安藤先生が取り組む研究テーマは、浄水膜ろ過システムや、バイオマス発電プラントから出る消化液の再資源化。これからの北海道のまちづくりを考える上で、「飲み水の安全をどう守るか」「環境への影響をいかに軽減するか」は避けて通れない課題です。そして同時に、北海道のローカルな課題を解決する技術はグローバルに応用できると安藤先生は語ります。

これからのまちづくりに欠かせない「水」を学ぶ。

—北海学園大学の社会環境工学科の特徴を教えてください。

道内私学で唯一、上下水道や水環境を含む本来の土木工学を学べる学科です。

—「本来の」とは、どういうことでしょうか?

他大学では土木工学と環境工学が分かれていたり、そもそも水環境を専門的に学べる大学は多くありません。そうした中、私たちは一つの学科で、昔ながらの「まちづくり」を目指した土木、本来の土木技術の中に含まれる上下水道などの公衆衛生を支える衛生工学に加え、環境への影響とヒトの生活とを考える環境工学を学びます。これは特に公務員やリーディングカンパニーを目指す人に求められることではありますが、これからの「まちづくり」、つまり人口減少時代にあってまちを維持していくために、「どう飲み水の安全を守るか」「環境への影響をいかに軽減するか」という視点はきわめて重要で、その視点を持てる学びができます。

都市代謝という言葉をご存じでしょうか。建物の集合体である都市を一つの生き物としてとらえる考え方です。生き物は栄養を摂取してエネルギーに変えて活動し、不要なものを排出しますよね。都市もまさに同じことをしています。自然から熱や水などのいろいろなエネルギーをもらって活動し、それらをアウトプットしますが、そのバランスが崩れるとまちも不健康になる。本学科ではどうやってそのバランスを保つかということを学び、考えます。

—先ほど環境工学という言葉がありましたが、ここでいう「環境」とは何でしょうか?

環境という言葉にはさまざまな意味合いがありますが、私たちはあくまで工学の視点で環境をとらえます。つまり、人をメインに環境を考えます。「人間活動<環境保護」ではなく、私たちの生活を中心に据えながら、自然との折り合いをどうつけるか、持続可能なあり方は何かを考えます。極めてSDGs的な観点です。私たちとしては、教育を通して、これからの北海道に欠かせない技術者を育成したいという願いが根幹にあります。

地域を支え、国を支え、世界を支える技術の開発を目指して。

—安藤先生が現在取り組んでいる研究について教えてください。

一つは浄水膜ろ過システムに関する研究です。「浄水膜ろ過システムの低動力な運転方法の開発と有機物除去性の両立に関する研究」を行っています。

—ジョウスイマクロカ……。すみません、そこから教えてください。

もちろんです。私たちは水道の蛇口をひねって出てきた水を飲みますよね。でも、ご存じの通り、その水は湧き水や地下水のような自然のままの水ではありません。天然の水(原水)をろ過して、塩素消毒などのさまざまな処理を施した水です。これを浄水と呼びます。浄水膜ろ過システムとは、浄水の要となる「ろ過」方法を指します。

日本では主に「砂ろ過(すなろか)」と呼ばれる方法で原水を浄化しています。砂ろ過は文字通り、砂をろ材としたろ過方式です。ろ材、つまり「砂の層」に水を通して異物を取り除きます。日本で一般的な急速砂ろ過システムは、安く大量の水を作ることができる点で非常に優れています。ただし、高度な運転管理技術が必要で、専門技術者が常駐する必要があります。技術者がたくさんいるうちは問題ありません。でも、これからの時代、特に北海道では技術者を確保できない地域が出てくるでしょう。そうした中で注目されているのが浄水膜ろ過システムです。

浄水膜ろ過システムは、たくさんの孔が空いたフィルターに原水を通すことにより、ふるい分けの原理で不要物質の除去を行います。フィルターの孔よりも小さな物質だけがフィルターを通過し、その結果、清浄な水を得ることができます。膜の種類によって塩分も除去できるので、海水から飲料水を得ることだって可能です。運転管理に高度な技術を要しないことも大きなメリットです。

ただし、デメリットがあります。設備そのものがまだ高く、ポンプを使って水を流す場合にはランニングコストがかかります。孔のつまりを防ぐためにときどき薬品洗浄をする必要があり、その分のコストもかかります。いろいろとお金がかかる、これが膜ろ過システムの導入を妨げる要因になっています。コスト面の課題さえクリアできれば、膜ろ過システムが普及して将来的な人材不足に備えることができるのではないか、というのが私の研究の目的です。詳しい説明は省きますが、膜の詰まりを改善しながら、さらに有機物の除去もできるような方法を研究しています。

—浄水膜ろ過システムが普及すれば、人材不足という地域課題の解決に貢献できるわけですね。

はい。さらに言うと、人口が減っても地域の水道インフラを維持するためには、電気と同様に水道もコンパクトシティを目指した方が良いという議論があります。つまり、布設や維持にお金がかかる水道管を切り離し、コミュニティ単位で小規模の浄水場を持つという考え方です。ここでポイントになってくるのが技術者の問題です。このとき、砂ろ過ではなく膜ろ過であれば、浄水場ごとに技術者を配置する必要がなく、複数のサテライト型浄水場をセンターで一元管理するという方法を採ることができます。

—つまり、浄水膜ろ過システムの課題解決が、「まちづくり」につながるということでしょうか。

その通りです。ただし、これはとても時間のかかる話です。私が引退するまでにその道筋が作れたらいいなと思っています。もう一つ、私たちが手がけている研究に「バイオマス発電プラントから出る消化液の再資源化に関する研究」があります。酪農が盛んな北海道では牛の糞尿処理が問題となっています。その排せつ物を利用してエネルギーを創出するバイオマス発電プラントが、ゼロカーボン社会の実現に向けて非常に期待されています。

しかし、メタン発酵のときに出る消化液の処理が問題となっています。窒素・リン・カリウムを多く含む消化液は、少量であれば液肥として畑に還元できますが、大量に播けば地下浸透や河川への流入の恐れがあり、水道水源の汚染につながる可能性があります。私たちは、消化液をただ処理するだけではなく、窒素・リン・カリウムを取り出して再資源化をするための処理方法の開発に取り組んでいます。

—消化液の問題がクリアできれば、バイオマス発電プラントの普及につながり、ゼロカーボンに貢献できる。さらに消化液を再資源化することで循環型農業の実現にも貢献できるのですね。

ええ。北海学園大学は北海道に支えられた大学です。ですから、研究を通して北海道に貢献したいという思いがあります。北海道が抱える課題は、これから先の日本が直面する課題でもあります。足元の問題を解決するための技術が、実は国を支える技術にもなるのです。

さらに言えば、北海道のような寒冷地の技術は、緯度が高く農業が盛んなヨーロッパにも応用できます。ローカルな課題にチャレンジすることは、グローバルな課題の解決にチャレンジすることでもあるのです。ですから、皆さんには北海道への思いと、外に向けた視線との両方を持っていただけたらと思います。

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