民法の学びを重ねると 問題の発見・解決能力や 公平・正義の感覚が身につく。
石月先生の担当科目は「民法」。日常生活全般に関わる利害関係の調整について定めるのが民法です。「民法を学ぶことはルールそのものを覚えるだけでなく、問題の本質が何なのかを整理し、解決する力を身につけること」と、先生はいいます。そうした学びを通して、公平や正義についての感覚を養います。
問題の発見・解決能力を鍛える。
–民法がわかると世の中の見方が変わる?
「朝起きて、水道の蛇口をひねった時から民法」なんてよく言われるんですけど、民法は私たちの暮らしのあらゆるものを規律しています。蛇口から水が出るのは、水道の供給契約があるから。地下鉄に乗れるのは、運行契約があるからです。意識はしていないけど、普段の生活から切り離すことのできない契約がたくさんあり、それらのルールを決めているのが民法です。これらの契約には、人と人との利害関係があり、民法はその対立を調整するルール。つまり民法を学べば、ルールの背後にある問題を知ることができ、世の中のルールがより深くわかってくるんですね。民法がわかると世の中の見方が変わります。それが民法の魅力の一つなんじゃないかと思います。
–民法を学ぶと、どんな力が身につくのでしょう。
民法そのものの知識も当然ですが、それよりも大きいのが問題の発見・解決能力が身につくことだと思います。例えば、AさんとBさんの利害が対立しているときに、「このぐらいの落としどころが一番お互いにとって公平だろう」という解決策を、「権利義務の有無」という形で示すのが民法でのルールだと思います。つまり、民法で用意されている解決策を勉強していくと、だんだん何が公平で妥当なのかという感覚が身についていきます。さらに、法律学ではその答えを他者に対して、なぜ正しいのか、どうして公平なのか、説得力を持った根拠を以て示さなければなりません。人と人との折り合い、利害の対立を調整するという点では、政治も同じ。総じて法学部の学びは、深めるにつれ正義や公平の感覚が身についてくものではないかと思います。
一つの問題には、さまざまな問題が入り乱れています。それらを解きほぐして整理し、それぞれの問題をルールに基づいて処理するのが民法の役割です。一般的には、これを問題発見・解決能力やリーガルマインドとも呼びます。
4年間を通して、こうしたことを学ぶと、物事の捉え方や視野の広さが変わります。法学部で学んだ知識、身につけた感覚は、将来どのような職業についても役に立つはずです。
データ駆使型社会を考える。
–民法の中でも、先生の研究テーマを教えてください。
最近は、個人情報とプライバシーの関係や、それらが意思決定に及ぼす影響について研究しています。近頃、「データ駆使型社会」なんていわれていて、さまざまなデータに基づいてビジネスが進められています。人の趣味嗜好や行動の分析が、企業の利益追求に大きな役割を果たしているんですね。
学生にも身近なところでは、インターネットで検索したり閲覧したりする、あるいは商品を購入したりサービスを利用したりするとき、私たちはその対価として自分のいろいろな情報を提供しています。そのデータが分析されて、その人の趣味嗜好に合ったサービスがさらに提供されるようになります。自分に合ったサービスが提供されるというのは、一見、いいことのようにも思われるでしょう。しかし一方では、「誘導されている」ともいえるのです。
SNSでは、自分の趣味嗜好に合った話題や広告が次々に表示され、より一層そちらの方向に流されていく。不特定多数に向けた一般的な広告であれば、惹かれることもなかったのに、自分にターゲットを合わせられた広告であるが故に惹きつけられ、消費行動につながってしまった。それは本当に自律的な意思決定なのだろうかということが、最近、問題視されるようになってきました。
–そこに対して、民法ができることは?
誘導されたにしても、最終的に決めたのは自分なんだから、という意見もあるでしょう。しかし、不特定多数に向けた広告による意思決定と、個人をターゲットに向けた意思決定とで、行動誘発までのプロセスが歪められているといえるのか、いえないのか。
民法は個人の意思決定をすごく大事にしていて、自律的な判断であるからこそ、契約という約束に拘束力を持たせています。自分の意思で決めたから、自己責任を負うのは当然という考え方です。しかし、そのもとになる意思決定が歪められているのだとすれば、拘束力を正当化できないというのが大前提。契約の際に、だまされたとか勘違いをしたということがあれば、その契約を取り消せるのが民法のルールです。個人のデータ分析による広告表示は、どちらに当たるのか、もしも問題があるなら規制が必要です。先に述べたようないわゆるターゲティング広告に関しては、Cookie情報の収集等、世界的にかなり規制されるようになってきていますけれども、個人の意思決定に及ぼす影響という本質的な問題は、今なお課題として存在していると思います。
–先生のゼミではどんなことをしているのですか?
これまで最高裁が下してきた判例の中でも、特に重要と考えられるものについての研究です。時代背景などを加味しながら判例の意義を考え、現在に照らし合わせるとどんな問題が残されているか、そういった判例研究をしています。
法律の勉強は、具体的な事実に法を適用し、その結果どうなるかというのがすごく大事。だからこそ、判例の勉強が重要ですが、講義だけだと一つひとつの判例を深く勉強することが難しい。そこをカバーするような意味合いもあって、ゼミでは判例研究をしています。
–法学部の学生にはどんな4年間を過ごしてほしいですか?
知的好奇心を大切に、何かに興味を持って取り組んでほしいと思います。それがなんであっても、きっと無駄にはなりません。興味を持ったことに対して、自分の頭で考えて取り組んでください。一見、明白な事柄や常識と思われていることを「どうしてなのか?」「本当にそうなのか?」という視点で捉え、考えてみることが有益な学びにつながります。そこに法律的な思考が加わると、きっと大学生らしい物の見方ができると思います。
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