03
28 2023

<TOPIC法学部> 法曹を志すための制度が 思ってもいない未来を示してくれた。

法学部は法曹を志す学生のために、一定の要件を満たすと3年で早期卒業し、北海道大学法科大学院に論文試験なしで入学できる「法曹養成プログラム」を開設しています。法科大学院(ロースクール)とは、法曹(弁護士・検察官・裁判官)養成に特化した教育を行う専門職大学院のこと。本学部法律学科所属の学生を対象に、2020年度からプログラムがスタートしました。奥野さんはこのプログラムを活用して合格を果たし、ロースクールに進学する「第1号」となりました(※)。法曹を目指すまでの経緯などについて、同プログラムを担当する神元隆賢教授、1年次から所属していたゼミの谷本陽一教授とともにうかがいました。  (※)奥野さん入学時はまだプログラムが開設されていなかったため、4年次に受験・合格し、2023年度にロースクールへ入学。

法学部 教授 神元 隆賢
法学部 教授 谷本 陽一
法学部1部法律学科4年 奥野 昂太(北海道札幌南陵高校出身)

勉強法をつかんで知った法律の面白さ。

–入学時は公務員志望だったとか。

【奥野】 はい。公務員試験には法律科目が多いので、法学部に進みました。ただ、公務員の中で何をやりたいとかは特に決まっていませんでした。入学当初は、大学の授業の進め方がこれまでとは違い、勉強の仕方も分からずとても戸惑いました。転機になったのが、「法職講座」(※)です。すごく分かりやすい教え方で、法律ってこんなに面白いんだと気づき、熱心に勉強するようになりました。法職講座を受講する中で、せっかく法学部に入ったのだから資格に挑戦をと勧められ、法学検定と宅地建物取引士の勉強にも取り組みました。法学検定に向けては学内資格講座を受講したのですが、法律の本当に入門の内容から始まるので、授業を理解する助けにもなりました。法職講座と学内資格講座をきっかけに、法律の勉強の仕方が分かったという感じです。1年次にどちらの資格も取得できましたが、宅建は独学だったので不安が大きくて、学食で昼食を食べていた谷本先生を見つけて相談したりもしました(笑)。

(※)「池田粂男記念法職講座」は、法律専門職の資格「司法書士」「社会保険労務士」の国家試験のための講座。受講は無料。

【谷本】 覚えています(笑)。試験日までもうわずかだけど、どう過ごしたらいいのかと聞かれて。今さら民法の話をしても仕方がない時期だったので、とりあえず今までやってきた問題集を繰り返しやるようにぐらいしか言うことがなく、あとはスケジュールと時間の使い方で安心させてあげるという感じでした。

【奥野】 宅建の国家試験には民法の問題も出題されるのですが、民法は同時期に法職講座でも学部の授業でも教わっていたので、相乗効果で勉強が進んだなと思います。その頃には、学部の授業も楽しいと思うようになっていました。

–「法曹養成プログラム」は意識していたのですか?

【奥野】 2年次になった時に制度スタートの案内がありましたが、行けたらすごいけど雲の上の話だなと思っていました。その段階では、勉強は面白くなったけれど、ロースクールを目指す成績の要件には全然満たなかったので。とはいえ、1年次冬に宅建の試験に受かった頃から、自分なりの独学術みたいなのがつかめてきました。2年次初めはまだ公務員を目指していたので、公務員試験の腕試しになるように行政書士試験の勉強も始めました。一般知識の科目がどうにも苦手で試験に受かることはできませんでしたが、法律に関する科目は点数が伸びて勉強になりました。そして、学内の公務員講座が始まる2年次秋を迎え、受講して本格的に公務員を目指すのか悩むように。その頃には法律の勉強が楽しくて、士業に憧れるようになっていたんです。中でも司法書士に引かれて、公務員と迷った末に司法書士を目指す決心をしました。

 –そして、受験の要件を満たすようになっていったのですね。

【奥野】 はい、なんとか。法曹養成プログラムに必要な学部の科目の勉強も頑張り、厳しいと評判の科目にも食らいついて3年次に要件は満たせました。でもその時は、司法書士になりたいとすごく思っていたので、とにかく勉強をして、4年次7月に試験を受けました。その発表を待つ間に、ロースクールの受験案内があったんです。司法書士試験は自分では五分五分の感触で、もしも不合格だった場合にもう一年勉強し直すか、その一方で、法曹養成プログラムを使ってロースクールにも行ってみたいという気持ちもあり。どうしようかと家族と話し合い、先生にも相談しました。

【谷本】 まだ司法書士試験の結果が出ていなかったのですが、司法書士に受かってからロースクールに行くという選択肢もあるわけだから、まずは司法書士に集中した方がいいんじゃないかと話しました。司法書士に受かった後にロースクールに行けば、たとえ法曹がダメだったとしても司法書士としての道はあるので、そういうところをよく考えてみなさいと。資金的な裏付けの問題もあるので、家族にちゃんと相談するようにとも言いました。

【神元】 私は、行け行けと(笑)。司法書士もとにかく判例を覚えないといけないので、司法試験に通じる点があります。ロースクールで学ぶことが、自分の判例の知識を整理するという意味合いでもいいんじゃないかと思いました。大は小を兼ねるというように、弁護士になれば司法書士の仕事はすべてできるわけですから。

【奥野】 親には、ロースクールに行きたいならもちろん行かせてあげたいと言ってもらえました。ただ、ここまで司法書士試験の勉強をしてきたんだから、まずそれを終わらせて、そこから考えたらとも言われました。結果的に今回の司法書士試験は合格できなかったので、来年度に再挑戦します。ロースクールに進学することを決めましたから、司法書士の勉強と両立できるのか心配はあります。でも、司法書士という資格に自分で決着をつけてから、本格的に法曹を目指すかどうか改めて考えたいというのが今の正直な気持ちです。

親近感のある法曹を、地元で目指したい。

–このプログラムの場合、ロースクール受験にメリットがありますよね。

【奥野】 そうです。僕の受験した形式は、志望理由書の提出と面接という2ステップだけ。受験の相談をした時、神元先生に「いい切符だと思うから握り締めて行きなさい」と言ってもらったんですが、本当にその通りなんです。志望理由書は谷本先生と神元先生に事前に見てもらい、アドバイスをいただきました。僕は、小難しい言葉ではなく、法律が好きとか、身近な親近感のある法曹になりたいとか、気持ちが伝わるような内容を書きました。面接では、なぜロースクールに進もうと思ったのかと聞かれ、法律の勉強をして面白さに引かれるようになり、もっと学びたいと思ったとか、法律家という仕事に魅力を感じたからと答えました。成績をぎりぎり満たすことができ、受験するチャンスを得られただけでも貴重なので思い切って受験したこと、ロースクールで学べるなら法曹に携わりたいと思ったことなど、自分の考えをストレートに伝えました。

–合格をどのように受け止めていますか?

【奥野】 受かるとは本当に思っていなかったので、「え!?」という感じでした。しかも、神元先生から連絡をいただいた時に、この制度で合格して進学するのは君が第1号だと言われて、それはすごいことだなと改めて思いました。

【谷本】 合格したと聞いたのは司法書士試験の合否発表の前でしたから、司法書士にも受かったらどうするんだろうとは思いましたけれど、彼の場合は自分で計画を立てて、自分でその通りに進んでいくだけの力があるので、僕がどうこういうような話ではないんです。家族や周りがサポートしてくれる体制ができていれば、それで十分だろうという感じでした。ゼミで見ていても、宅建や行政書士の試験の時でも、自分でかなり考えて準備をして、情報収集も一生懸命やっていました。ですから、ここまでやれるんだったら大丈夫とも思っていました。僕が何かを教えたというより、彼は誰のもとについても、もともとちゃんとやれる人だったということ。ロースクールに行くことで周りと歯車がよりうまくかみ合って、今後の成長をもっと期待できるんじゃないかと思っています。

【奥野】 先生はそう言ってくださいましたが、僕は一人ではできないところもたくさんあって、授業が終わったらほぼ毎回先生のところへ行っていました。いつも親身に相談に乗ってくれて、谷本ゼミに入って良かったと本当に思っています。

【神元】 彼が合格・進学することで、法曹養成プログラムの実績を積むことができた点でも良かったです。どんどん後に続いていってもらいたいと思っています。ロースクール制度には、地元の法曹を育てるという趣旨もあるので、札幌出身の彼が実家から通って学ぶということですから、まさに地域密着。北海道の弁護士を育てるという北大側の需要にも、マッチングしたんだと思います。それに、彼の場合は既に宅建を取得していて、司法書士の勉強も重ねているわけですから、ある程度の下地があると考えられますからね。

–入学時と違う未来像になったのは、どんなことが影響したと思いますか?

【奥野】 本当に、まるで違う未来になりましたが、それはやっぱり先生に恵まれたというのが大きいと思います。谷本先生をはじめ、神元先生の授業も面白かったし、法職講座の先生もステップアップの助けになってくれました。家族も含めて、周りには僕のことを否定する人がいなくて、みんなが背中を押してくれるんです。僕の実力とかではなく、環境に恵まれたというのが一番だと思います。中学までは、勉強って楽しくないものだと思っていました。高校からコツコツとやるようにはなりましたが、大学に入って、勉強はやらされるものではなく、自分でやりたいことを見つけて自分でするものなんだと分かったんです。この4年間の大学生活で、自分がやりたい法律という分野を見つけられたのは、すごく幸せなことだと思っています。

–最後に、法学部への入学を検討している受験生や在学生に、この制度をどのように活用してほしいとお考えですか?

【神元】 本学は9割が道内出身者なので、この制度が北海道の出身者が北海道で学んで、北海道の法曹として活躍するという方向への一助になればと考えています。

【谷本】 制度があることによって法学部に興味を持ってくれて、法学部に来て自分の進路を真剣に考えていただけるというのであれば、そのきっかけとしては非常に便利なものなのではと思います。

【奥野】 この制度があるおかげで、ロースクールへの敷居はだいぶ低くなると思います。学生としては、うれしい制度です。

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