1年1kmが今や一瞬!? 日本語の進化を学ぶ。
「はひふへほ」は「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」だった!?
―私たちが普段使っている日本語を、学問として学ぶとはどういうこと?
1年次に履修する「日本語学概論」では、普段、無意識に使っている日本語を掘り下げて学問的に説明します。例えば、「アボカド」なのか「アボガド」なのかという問題。外来語なので英語表記に則って日本語にすると「アボカド」が正しいように思えますが、話し言葉としては「アボガド」がよく使われます。実は日本語では、濁音と濁音に挟まれる音は濁音にした方が自然な発音になるのです。日本語では2つの単語がくっつく時にも濁音が使われます。「山」と「寺」がくっつくと、「やまでら」と発音しますよね。これを「連濁(れんだく)」と言います。
―面白い!私たちは無意識に日本語の文法を身につけているのですね。
日本語が面白い!となったら3年次以降に「日本語学特論」が待っています。これは古典や文献を分析しながら、1,000年前にどんな日本語が使われていたかを学ぶ授業です。古代から始まり、現代の日本語がほぼ完成したとされる江戸時代までを扱います。現代語は古典の積み重ね。日本文化学科には国語の教師を目指す学生が多いので、とても役に立つ授業です。
―どんな文献で勉強するのですか?
例えば、1592年にポルトガルから日本に渡ってきた宣教師が作った本。日本語と日本の歴史を知りたい宣教師のために、平家物語をすべてローマ字で書いています。それを読むと、当時の日本語の発音が分かります。平家は「feike」と書いてあって、当時は「フェイケ」と発音されていたことが知られます。ほかにも人は「フィト」。はひふへほは「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」だったようです。この500年で日本語がどれだけ変化したかが分かりますよね。
―日本語は生きているんですね。
そうです。言葉は三世代経ると古くなると言われています。言葉も洗練されていくんですね。古文では尊敬語も謙譲語もありますが、今はほとんどありません。面倒な敬語はなくして「です、ます」だけで十分。若い人たちの間では「バイト敬語」なんていうのも流行っています。「~でよろしかったでしょうか?」は、相手に対して一目置いているという気持ちは示せます。
日本語学を通して歴史や社会の変化を見る
―言葉の変化を知るには歴史を学ぶ必要もあると。
人文学部には幅広い知識を身につけられる授業がそろっているので、ぜひ歴史や文学も一緒に勉強してほしい。すると日本語の成り立ちと、日本の社会がいかにでき上がってきたかというつながりや、今も残る日本語のわびさびも知ることができます。
―民俗学との関わりも面白そうです。
民俗学者の柳田國男は、言葉を非常に重視していました。彼は日本全国でカタツムリの方言を調べ、地域によってマイマイやデデ虫と呼ばれたり、ナメクジとも呼ばれることをまとめています。民俗を知る上で言葉はとても重要なファクター。人間が使う一番基本の道具が言語ですから、そこからさまざまな学問が派生していると私は思っています。
―EメールやSNSは、言葉の変化に影響を与えますか?
確かに昔よりも急速に言葉が広がるようになっています。昔は方言が伝わる速度は1年に1kmと言われていました。つまり、100km先へ方言が定着するのに100年かかったというわけです。京都から青森までは1,000km。青森の方言の一部は1,000年前に京都で話されていた言葉なのです。1,000年たってようやく青森に到達した頃には京都ではすっかり昔の言葉。しかし、今はテレビやラジオ、SNSによって、言葉は一瞬で遠くまで飛ぶようになりました。
―言葉をひもとくと、歴史や社会の移り変わりも見えてきますね。
ぜひ見てほしいですね。自分たちもその変化の流れの中にいるのですが、一歩引いて「この変化は、この流れの一環なんだ」ということを客観的に把握します。すると興味は歴史や文化などに広がっていきます。それを研究につなげてほしい。日本文化学科は卒業論文が必修です。大きなテーマを自分で決め、今まで知らなかったことを自分で調べてまとめる。それまで知られていないことを明らかにするのは、勉強の醍醐味です。頭がやわらかい大学生の内に、ぜひ手強い題材にも積極的に取り組んでほしいです。
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