<人文学部トピックス> 日本語を教える学びを通して再発見した 私たちの「母語」の奥深さ
本学は日本語非母語話者に対する日本語教員の育成を目的として、1998年に道内の大学では初となる日本語教員養成課程を設置しました。社会・文化・地域、言語と社会、言語と心理、言語と教育、言語の領域から構成されるカリキュラムの修了者には、大学卒業時に日本語教員養成課程修了証が授与されます。国内の日本語教室や海外の大学などで日本語教育の経験を積むための実習科目も設置されており、学びを将来の仕事に繋げたり、国際色豊かな仕事の場に生かしたりすることが可能です。2024年度からは文部科学省認定の「登録日本語教員」として国家資格となり、日本語教員の資格は大きな変革期を迎えています。今、注目されている学びを本課程で受講した学生3人に、学びの内容やおもしろさなどの経験談を教えてもらいました。
[日本語教員養成課程参加]
人文学部2部英米文化学科4年 森長 梨花(愛知県立豊橋西高校出身)
人文学部1部英米文化学科4年 原 弥郁(札幌英藍高校出身)
人文学部1部日本文化学科4年 藤野戸 柾希(旭川永嶺高校出身)
日本語教員課程がある大学を探して。
——みなさん、日本語教員養成講座を受講したくて北海学園大学に入学したそうですね。
【森長】 もともと通訳に興味があったので英語を勉強していましたが、頑張ってはみたものの、あまり得意ではありませんでした。そんな時に、高校の先生から「日本語教師という仕事もあるよ」とアドバイスをいただいたことが、大学で学ぶきっかけになりました。
【原】 高校生のときに経験した海外旅行がきっかけで、外国の人と関わる仕事がしたいと思うようになりました。高校の先生から日本語教師という仕事があることを教えていただいて興味を持ち、英語を学びながら日本語教員養課程が受講できる北海道の大学を探して北海学園大学に入学し、1年次から受講しました。
【藤野戸】 高校生の時に読んだ小説の日本語表現に惹かれ、日本語に興味を持つようになりました。日本語に携わる仕事を探して日本語教員の存在を知り、日本語教員養成課程がある北海学園大学に進学したんです。
——日本語を教える学びはいかがでしたか?
【森長】日本語を知らない相手に教えるので、まずは平仮名やカタカナ、漢字を教えることから学びます。日本語学習者が文字を覚えたら、今度は言葉の意味を教え、どんどん言葉の量を増やしていく仕事じゃないかなと思います。
【原】 あとは、言語だけではなく、日本に住むための日常的なマナーですとか、ルールも一緒に教えることも大切かなと思います。例えば、ゴミ出しのルールや電車のマナーなどですね。
【藤野戸】 日本語学習者に質問されても答えられず、自分はあまり日本語に詳しくないことに気がついて、もっと日本語を勉強したいと思う機会になりました。
——4年次には、学外でも実習をされたそうです。
【原】 私たちは3人とも「札幌ランゲージセンター」という日本語学校で実習を行いました。この学校では、日本の大学や大学院に進学を希望する外国人留学生や、日本で就職したい中国、台湾、ネパールの方などが学んでいらっしゃいます。一人ひとり違うテーマが与えられ、日本語学習者を対象に45分間の授業をする実習でした。
【森長】私は、「何々は何々です」がテーマでした。例えば「この家はベランダが広いですね」といった内容です。自分が与えられたテーマに沿って、授業の流れをまとめた教案を45分用意するんです。イラストや写真なども使いながら、よりわかりやすく、より興味を持ってもらえるように工夫しながら作成した教案を先生にチェックしていただいてから、本番に臨みます。
【原】 私のお題は「何々は何々より」という、比較についての勉強でした。日本語学習者は初級レベルだったので、教室内は英語などの母語も飛び交う状態で。でも「母語は禁止。日本語で話すように」というルールがありました。どうしてもわからない時に、学校の先生が英語を使って補足することもあったので、教える中では英語を使う機会もあるのかなと思いました。
【藤野戸】自分は「何々のような」と「何々みたいな」という比喩表現がお題でした。外国人の方を相手に初めて授業したので、自分ではうまくできたのかどうか正直わかりません。でも、ある程度は練習通りにできたかなと思っています。もちろん反省点もありましたので、それは今後に生かしたいと思っています。
【原】 実習に備えて、学生同士で何度も模擬授業をするんです。みんなで藤野戸さんの模擬授業を見て、「本番はもっと声を出した方がいいよ」なんて言っていたのですが、実習本番の授業は声も大きかったですし、質問にもきちんと答えていたので練習の成果が出ていたと思います。実習後には反省会で振り返る機会もあり、気を付けるべきことも確認できました。
【森長】自分が社会に出て、日本語教師になる前の準備段階の実習なので、自分の教え方が合っているのか確認する場でもありました。日本語を学ぶ学生に対しての初めての授業でしたので、緊張に慣れる場でもあったと思います。
——日本語教員養成課程は、卒業後の進路に影響しましたか?
【森長】 卒業後は日本語教師として働きます。人としゃべることが好きなので、いろんな国の人と話ができる仕事に携わり、それが外国人の方のお手伝いになったらいいなと思ったんです。実習を経験して、日本語教師の仕事に就きたい思いも強まりました。生徒さんから質問を受けた時に、「きちんと答えられた!」と思える機会が何度かあったんです。わからなくて顔いっぱいに「???」とはてなマークが書いてあるような表情だった生徒さんの顔が、理解できて「わかった!」って表情になる瞬間があるんです。そんな笑顔が見られることにやりがいを感じました。
【藤野戸】 日本語教員の学びを深めるために、私は大学院に挑戦する予定です。もし今年ダメだったとしても、非常勤で日本語講師の仕事をするつもりでいます
【原】就職活動を終え、私は新千歳空港のインフォメーション業務を行う会社で働くことに決めました。またいつか、社会人経験を生かして、別の形で日本語を教えることもあるかなと思っています。社会人として使う日本語も、日本語学習者に教えられるようになりたいですね。
学ぶほどに、頭の中の日本語が分解されて。
——日本語を教えるおもしろさや大変さとは?
【森長】教える立場になると、今、自分が使っている言葉が本当に正しいのかわからかくなってくるんです。例えば「ら抜き言葉」とか。夏休みに日本にやってきたカナダからの留学生に、「一、ニ」のことを訊ねられた時は困りました。イチニ、ひとつふたつといった読みの使い分けは、どのように教えたら伝わるだろうって。
【藤野戸】 教える際は、まず相手の学生の日本語レベルを把握しないとなりません。自分が教える時に使う日本語を、どの程度までかみ砕いて使うべきか判断できないからです。相手に合わせた日本語を使わなければならない難しさがあると思います。実際に日本語を教える職業に就いたら、より日本語学習者の日本語レベルを明確にして、きちんとステップアップしていく必要があると感じました。ひとつの事象に対する日本語の表現はさまざまなので、学びを通して、日本語の奥深さを再認識しています。
【原】 学んでいておもしろいと思ったのは、破裂音とかの調音法や調音点が出てくる発音記号ですね。全部の音に名前がついているんです。覚えるのはすごく大変でした。
【藤野戸】 調音点は、発音する時に口の中で舌をどの位置に付けるとか、どこの部位を使うか表す音声学の用語です。音を出す際の摩擦だったり、破裂だったりが示されていて。
【森長】口の中で、どこが動いているのかを説明するためのものですね。勉強している身からしても、何を言っているかわからないくらい、難しいんです……。
【原】 この課程で学んでいなかったら、日本語を使う私たちでさえ知ることがなかった勉強に出合えるおもしろさがあります。頭の中の日本語が、どんどん分解されていくような感覚になりました。音声学を通して、考えたこともなかった日本語を学べたことは、興味深い経験になりました。
——どんな人に向いている学びでしょうか?
【原】 海外と関わりたい人ですね。日本語教員養成課程で学んで海外でお仕事したい人とか、国内だけではなく、国際的な交流が好きな人が学ぶと、将来の進路が広がるのではないかなと思います。日常ですれ違った外国人に、「どうやって行けばいいですか?」と、道を聞かれた際も、「まっすぐ行きます」「2本目を右に曲がります」のように、難しい日本語ではなくやさしい日本語を使えるようになりました。仕事先に海外人実習生などが来た際も、伝わりやすい日本語で話せるかなと思います。
【藤野戸】 日本語が好きな人が向いているとは言えないかもしれませんが、受講してみたら興味が広がると思います。
【森長】 小学校、中学校、高校の先生って、よく知られた仕事ですよね。日本語教師って、自分の中ではちょっと特別な感じがするんです。だから、特別感が味わえる学びかもしれません。言語の勉強って、高校の数学や社会のように、必ずしも正解がありません。日本語や英語の表現はさまざまなので「自分の母語を使って表現したらどうなるんだろう?」と考えたり、教えることに興味がある人は、やってみてほしいなと思います。あと、日本語教員養成課程で学ぶとボディーランゲージが増えます。ずっと体を動かしている感じで、とても楽しい学びです。
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