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24 2022

絵には人の「心」が 本当に表れている?

経営学部経営情報学科 進藤 将敏 准教授

認知・発達心理学が専門の進藤先生は、幼児期から高齢期まで、人間の一生涯にわたる認知発達のさまざまな研究を行っています。中でも力を入れているのが、「お絵かき」の分野。子どもの頃から身近な「絵を描く」という活動と、認知の関係を明らかにすることで、人間の心の働きについて理解が深まり、教育への応用も期待できると考えて研究に取り組んでいます。

子どもの絵が教えてくれること。

ーー心理学では絵をよく扱いますが、やはり感情などが表れるものなのですか?

昔から絵は心を表すと言われているんですが、実は科学的にはよく分かっていなくて(笑)。子どもが画面を黒く塗りつぶすと、心に闇があるんじゃないかと思われがちですけれど、ただ単にそこにあった色とか、好きな色を使っているだけということも。最近行われた実験でも、自分の気持ちを色で表してみてと言うと、悲しいも楽しいも水色で塗ったりしています。大人になると色のイメージが決まってしまうので、それで勝手に解釈している可能性がある。僕の場合は色使いというより、絵を描いている時にこういう表現をしたらこういう認知の発達が起こっている、といった認知発達の仕組みを調べるところから研究をスタートしています。例えば、幼児期に何かを画用紙に描いてもらうと、とても小さく描いたりすることがあります。大人が想定するように余白を利用して描くのは、あくまでも二次元ではありますが、紙の上の空間を捉える力が発達してこないと難しいんです。紙の大きさを把握して空間をうまく活用した絵を描ける子どもほど、空間認知能力が高いという相関関係が出ていて、僕はそういうところを研究しています。

ーー描画によって、人間の心の働きをのぞくことができるとか。

例えば、幼稚園児にサイコロを見えた通りに描いてもらう実験をすると、一定数は展開図のような絵を描きます。見えた通りではないと大人は言うかもしれませんが、実は人間が物を見ることの本質が表れている。写真のように見ているのではなく、下にも面があるし、隠れて見えない向こう側にも面があるとちゃんと知っていて、物体の本質を漏れなく表現しているわけです。それを超高速で計算して描くのは、ロボットではなかなか難しいのですが、人間はいとも簡単にやってしまう。そうしたことを、子どもの絵が教えてくれます。

ーー先生が今、一番明らかにしたいと思っていることは?

お絵かきって、小さい頃から経験するすごくメジャーな活動だと思うんですよね。それなのに、発達、成長の上でどういう意義があるかは、いまひとつ分かっていない。豊かな心を育てるとかよく言いますが、具体的にどういう経験が、どういう認知の発達につながっていくかというエビデンスを示して、こういったお絵かき活動をすると、こういった育ちにつながってくるというところを明らかにしたいと思っています。今は、幼児を対象にした実験は難しい状況なのでゼミ生に手伝ってもらい、ヘッドギアをつけて脳血流量を測りながら絵を描くことで、どんな時に前頭葉が働くかなど脳の活動について調べているところです。

経営はお金だけじゃない。

ーー学生はゼミナールでどんなことに取り組んでいるのですか?

人間の創造力を高めるためには、どういう活動が有効か、どういうアクティビティをすればたくさんアイデアが出てくるか、そういったことを実験で検証しています。例えば、1個のレンガの有効な使い方を思いつく限り挙げてみるという実験があります。壁の材料や重りなどの当たり前のもの以外の使い方は、実際に考えると難しいんですが、発想を広げてどれぐらいアイデアが出たかを数えるとデータになります。そして、もう1度課題を考える時、どんな活動をするとアイデアの数が増えるかなどを調べていきます。条件として、じっくり3分間考えるというのはあまり効果がないけれど、散歩にはある程度の効果がある。お絵かきの活動なら、普段は意識しないようなペットボトルの真上からの見え方などを描いた後は、いつもと違う部分の頭を回転させているので、よりクリエイティブになるんじゃないか。そうやって条件をどんどん考えて、どんな結果が出るのかデータ化し、分析していきます。

ーー1年間かけてテーマに取り組むのですか?

そうですね。どういう実験条件でやるのか、協力してくれる被験者をどう募集するのかなど、1からすべて学生にやってもらうのですごく時間がかかるんです。そういう地道な研究活動を根気強く粘り強く、結果が出なくてもめげないでやる。社会人になった時に役立つ経験にもなると思っています。

ーー科学的に考える力も身につけてほしいそうですね。

はい。大学の場合、心理学は文系ですが、やっていることは科学的な思考を求めるような分野。仮説や疑問をどう解決するかといった時、科学的な手順を考えるのがすごく重要です。自分の主観や狙いはあっても、それを客観的にどう表現するかという思考力が重要なので、検証するための方法を考え、データを取り、分析し、考察する。それが科学的に考える、説得力を持って人に伝えるということで、それこそがコミュニケーション能力。その能力があれば、どんな職種でも通用するんじゃないでしょうか。

ーー経営学部で心理学を学ぶ意味を、先生はどのようにお考えですか?

経営ってお金のことだけじゃなくて、結局、人が絡んでくるんですよね。メジャーな例だと、どういう広告を作れば人は動くのかといった消費者心理学。僕の場合、生涯にわたる発達心理学が専門ですが、いろいろな年齢層をターゲットにしたビジネスがありますから、発達心理学の知識があった方が、より質の高いサービスが提供できる。そんなふうにすべて人が絡むことを考えると、心理学は経営に必須だと思います。

経営学部経営情報学科 進藤 将敏 准教授
[専門分野]認知・発達心理学 [主な担当科目]認知心理学

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