01
23 2023

絶滅危惧種シマフクロウから考える 野生動物とヒトの共生。

工学部生命工学科 早矢仕 有子 教授

翼を広げると1.8mにもなる「シマフクロウ」。日本では北海道のみに分布し、生息数約165羽とされる絶滅危惧種です。川の環境悪化で主食の魚が減少したこと、子育てに必要な大木が森林伐採で失われたことが、減少の大きな要因とされています。早矢仕先生は生態研究を通して絶滅の危険性の軽減を目指し、野生動物とヒトの共生について考えています。

重要なのは適切な距離。

–シマフクロウの生態研究は、どのように行うのですか?

生息地の個体に足輪を付け、動向を長年にわたって調査することで基礎的な生活史を解明してきました。小型の電波発信機を装着して、行動圏や環境利用なども調べてきました。長く観察を続けていると、顔立ちで見分けられる個体もいます。ほかの鳥と違ってフクロウは人間のように目が前にあるので、分かりやすいんだと思いますね。シマフクロウは生態自体が興味深く、おっとりしたところがあるのも私には魅力です。生態研究を通して保護政策に助言を行い、絶滅の危険性を軽減することを目指しています。同時に、絶滅危惧種を含む野生動物とヒトが共生可能な関係を築くことも大きなテーマです。

–最近は、ヒグマなどの野生動物の問題も身近になってきました。

根本は同じで、ヒトとの距離が難しくなっているんです。ヒグマやエゾシカは、かつて絶滅の危機に瀕していたため保護した結果、個体数が増えてヒトとの軋轢が深刻化しています。シマフクロウなどの絶滅危惧種も観光利用の対象となり、餌付けなどによってヒトを警戒しなくなっています。野生動物とヒトとの関わり方をみんなが考え、適切な距離を保つことが共生には欠かせません。

–シマフクロウを知ってもらうことも大切でしょうか?

もちろん。シマフクロウを実際に見ると、感動すると思うんです。ああすごい!と感じると、ここにいてほしいよねとか、絶滅してほしくないよねと思うので、そういう気持ちを吸い上げていかなければいけない。でも今は保護が第一で、野生個体を公に見られる体制にはないため、保護活動などに協力してくれそうな方たちをみすみす逃しているんです。シマフクロウをどうやって知ってもらうか。難しい問題です。野生個体を見たいという需要があるだけに、ある程度は応えることを考えていかなければ、とも思います。ただ、もし公開するなら、規則をちゃんと作らなければなりません。マナーに訴えるのは限界があって、鳥が嫌がるのを知らずにヒトがやっていることが、すごく悪影響を与える場合もありますから。シマフクロウは札幌市円山動物園など一部の動物園で飼育されていますので、まずそこでぜひ見てほしい。動物園と連携して、知識を含めて広く知ってもらう取り組みも進めています。同時に、シマフクロウの自活力にもう少し期待していいのかもと個人的には思います。巣箱と給餌で保護をずっと続けていっていいのか。少しずつ我々が引きつつ、彼らの野生の力をもっと引き出していった方が、将来的には良いのではとも考えます。

–野生動物の保護は、人間の問題だそうですね。

そうです。人間側が対応を変えていくしかない。クマやフクロウにこうしてくれ、と言うわけにはいかないので(笑)。シマフクロウは一番減ったとされる80年前後の推計では約70羽でしたから、保護政策で増えてきたのはありがたいことです。けれど、増えたことで極端に言えば札幌に出てくるかもしれないのに、我々にシマフクロウと近いところで暮らしていく準備はできているかというと、できていない。野生の生き物にあまりなじみのない方たちとも、距離の取り方などの良い形を探っていきたいですね。

まず身の回りに目を。

–学生たちには、野生動物に興味を持つきっかけをつくっているそうですね。

学生にはまず身の回りにちょっと目を向けて、生き物に関心を持ってほしいと思うんですよ。シマフクロウじゃなくても全然いい。少人数の演習形式の授業などでは、身近にいるのに意外に見ていないスズメやカラスを実際に観察します。キャンパスの中だけでも、春にはスズメがあちこちに巣を作ったり、砂浴びしたりしています。ハクセキレイやシジュウカラがいたり、豊平川が近いのでオオセグロカモメも飛んでいます。そういう身近な生き物にまず気づいてもらう。そうすると、植物にも興味が湧くかもしれない。あるいは人間にも興味がいくかもしれない。自分の世界をちょっと広げると、ただの通学路も面白くなるし、生活が豊かになると思うんです。些細な一つ一つに気づけると、自分が住んでいる環境や気候の変化も感じられるはずです。

–卒業研究ではどんなテーマに取り組むのですか?

鳥類を材料に、地域と野生動物の共存の在り方を探っています。例えば、エゾフクロウはいつ何を食べているか分析して地域の生物多様性を明らかにしたり、札幌の都心部に住むドバトの生態を調べたり。研究活動を通して、野外で調査を行う基本的な力を身につけてほしいと思っています。つまり、五感をフル回転させて生き物の存在を感じ、正確なデータを取得し持ち帰ること。あらかじめ知識を得ておくことは大切ですが、生き物に向き合う時は先入観を持たず観察し、行動を客観的に記録・分析することが重要です。そのためには、生物や自然に対して謙虚な気持ちを持ち続けねばなりません。謙虚さを忘れずにいることは、対人関係の構築にも大いに役立つはずです。

–生き物が対象だと、観察の時期が限られる難しさもありそうですが。

確かにそうなんですが、面白さでもあります。野生動物を相手にしていると、一期一会的なところがあるんです。例えば繁殖時期を逃してしまったら、その年はもう観察できない。出会えた時に詳しく観察しておかないと、次はないかもしれないわけです。そもそも野生動物は会えたらラッキーで、チャンスを逃すなと学生たちに伝えています。

工学部生命工学科 早矢仕 有子 教授
[専門分野]保全生物学(鳥類)  [主な担当科目]生物多様性論、環境生物科学

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