03
27 2024

生命科学と情報の 融合により 生化学は新時代へ。

工学部生命工学科 友池 史明 准教授

専門は生化学。タンパク質の構造と機能を調べ、創薬などへの応用方法を模索しています。「今、生命科学の分野では膨大な知見がオープンソースとして共有されています。ひと昔前なら分析に何カ月も要したことが、機械学習を活用すれば短時間でできる。3Dプリンターで欲しい実験器具を自作することもできる。」と友池先生。それを可能にするのも「生命科学と情報が融合した本学の強み」と語ります。

タンパク質が世界を救う!?

–生化学とはどんな分野でしょうか?

生化学(Biochemistry)は、生命現象を分子の視点から化学的に理解しようとする学問です。車をどう理解するかに例えると、ハンドルやタイヤの一つひとつを取り出して形を調べたり、「サスペンションってこういう構造だから衝撃を吸収できるんだね」という具合にパーツの機能を一つずつ見ていったりするのが生化学のやり方です。同じく生命科学系の分野に細胞生物学があります。細胞生物学は、「アクセルを踏むと車の中で何が起きるか?」「ハンドルを回すと何が動くのか?」というように、車が走る仕組みや部品同士の相互作用を観察することで車を理解する方法と考えると、この2つの学問の違いがわかりやすいでしょうか。

生命現象をパーツから理解すること。それは、生命の神秘を紐解く上でとても重要な基盤となります。そうした純粋に学問的な意義はもちろん大切ですが、「研究を通して人の役に立ちたい」「社会課題を解決したい」、さらには「儲けたい」というのも、生化学を学ぶモチベーションになりうると思っています。

–社会課題の解決とは、どういうことでしょう?

私たちの体の中では、さまざまな化学現象が起きています。例えば病気は、何かしら化学現象がうまくいっていない状態と捉えることができます。私はタンパク質科学を研究テーマにしていますが、体の中の化学現象に関わるタンパク質の構造と機能を調べ、それらを改変して新しい知見を得ることによって、それが新しい薬を創るブレークスルーになるかもしれません。

創薬だけではありません。生化学を応用することで、人類が未だに成し得ていない物質生産や環境浄化にも貢献できる可能性があります。

一つ例を挙げましょう。国内で採集した土壌からPET(ポリエチレンテレフタレート)を分解して栄養源にする細菌が発見されています。これにより「自然界ではPETは分解されない」というこれまでの説が覆りました。この細菌のゲノム情報を基盤としてPETを分解する酵素を解明して進化させれば、プラスチックに酵素をササッとかけるだけで、翌朝には何にもなくなっているということが現実になるかもしれません。実際に廃棄物処理に応用する研究が世界的に進められています。生化学がプラゴミ問題の救世主になる日も近いわけです。

大学はチャレンジャーの楽園。

–友池先生ご自身はどんな研究をしていますか?

主に三つの方針で研究を行っています。一つは、タンパク質の構造と機能を調べる研究です。二つ目は、実験技術そのものの研究です。昔と違って今は、「こんな実験道具があったら便利なのに」と思ったときに、コンピューター上で描くことさえできれば、3Dプリンターを使って出力することができます。そうしたオリジナルの実験器具で研究上の問題解決ができないかというのを学生と一緒にやっています。

三つ目は、情報技術の応用です。現在、生命科学の研究では、多くの知見がオープンソースとしてインターネット上で共有されています。タンパク質の構造だけでも今日時点(2023年10月)で21万件を超えます。あまりに膨大なため、人間の手ですべてを網羅することは不可能です。でも機械学習の技術を使えば、かつて私たち研究者が数カ月間コンピューターに向かって解析していたことが、数時間でできてしまいます。このように情報技術を取り入れることで、生化学は新しいフェーズに入るでしょう。

特に二つ目、三つ目に関しては、生命科学と情報が融合した本学の優位性は非常に高いものがあると考えています。

–最後に、これから大学生になる皆さんへのメッセージをお願いします。

もしあなたが将来的にベンチャーを立ち上げたいと望んでいるなら、大学ほど恵まれた環境はないと断言できます。大学の研究室には試薬も顕微鏡もそろっていて、自由に使うことができます。同じレベルの実験環境を個人で整えようと思ったら、それだけでも大変です。

挑戦には失敗がつきものです。例えばベンチャーを立ち上げようと新しい技術開発に挑戦したとして、大学4年間でうまくいかなかったとしても、まだ見込みがあるなと思えば修士課程に進んで、2年間それに打ち込むこともできます。やっぱりダメだったとしましょう。でもその経験は就職活動でプラスになるはずです。なんらリスクがないんです。リスクなしで挑戦できるのは、おそらく大学生が最後のチャンスだと思うんです。大学発ベンチャーは国からの支援も受けやすいし、大学の看板も利用できるかもしれません。これだけ応援してくれる環境があるというのは、本当に恵まれたことです。 大学は可能性を広げる場です。知識や能力を向上することで皆さん自身の可能性が広がり、皆さんとともに研究して新しいことを発見することで、人類の可能性が無限に開かれます。そして大学には、それを応援するための環境やチャンスが用意されています。貪欲に知識を吸収し、チャンスをつかんでほしいと思います。

工学部生命工学科 友池 史明 准教授
[専門分野]生化学(タンパク質科学) [主な担当科目]生化学ⅠⅡ、バイオテクノロジー実習

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