02
06 2023

深く考えた? 設計に至るプロセスこそ大切。

工学部建築学科 三澤 温 教授

意匠・構造・環境を横断する設計技術を検討し、超高層ビルやガラス張りのアトリウムなどを、より魅力的にするのが「ファサードエンジニアリング」。三澤先生は設計支援に関わったこれまでの経験を踏まえ、「インテグレーテッドデザイン(統合設計)」を目指す研究に学生たちと一緒に取り組んでいます。「より深く」をモットーに、さまざまな面から建築を考えます。

統合設計を目指して。

–先生の研究分野について教えてください。

①ファサードエンジニアリング:建物を包み込む技術とその空間領域を創造すること②サスティナビリティ:次世代に何を残していくかを捉え、考え方を示していくこと③ガラス建築の設計技術:ガラス周辺技術を開発し、周辺環境と建物の融合を考えていくこと④身近な環境の再検証:調査と設計提案を通して、身近な環境をより良く再設計すること。これら4つが、つながりあっているという感じです。

–設計はどんなふうに考えていくものなのでしょう?

建物を建てる際には、どういう作業をするか考えていくわけですが、その時に何が求められるか予見するのが設計のプロセスの一番大事なところです。ファサードに関していうと、例えば、日照、日射、雪、風、音など外部環境に対して、最初に自分でどこまで問いを出せるかが大事で、それが良い設計につながっていきます。下図のように、まず建物として必要なベースの機能があり、次に雪や風などに対するパフォーマンスが守られていることが従来の設計です。今はさらに、環境や意匠的なことが求められ、最後にそれが全部統合されて一つのデザインになっている「ホリスティックデザイン」「インテグレーテッドデザイン」といわれるものが大事になっています。私の研究室は、学科内では環境系に属していますが、環境に特化するのではなく、構造や意匠的なことも考えた統合設計を目指しています。

–「より良く」を研究活動で大切にされているとか。

すべての気づきに「より良くという想いを」がモットーです。ただ最近は、「より深く」の方が表現として合っていると感じています。最終的なアウトプットに対して、さまざまな面を考えた上でこう決めたという責任を持ってもらいたいんです。結果として同じであっても、そこに達するために「深く考えたか」というプロセスが大切です。料理に例えるなら、建物は一つだけの調味料で仕上げるのは無理で、いろいろな調味料が必要になる。ですから、いろいろな切り口で検討するプロセスをまず大事にして、そこから形を考えていきます。

仕事のトレーニングも。

–卒業研究は4チームに分かれているのですね。

はい。1チームはサスティナビリティの知育に関する研究。サスティナビリティを考えるきっかけになるキーワードと写真・データで構成された英語の知育カードを日本語に翻訳し、レイアウトなども検討して作成しています。このカードを使ったワークショップを建築学科の学生を対象に行うために、4年生がテーマを選び、どうしたら3年生が話しやすいかなど活用方法も検討しました。ちなみにこのカードは英国の企業のものですが、いずれ何らかの形で日本語版をお披露目する計画があり、その時には本学との協働を明記してもらう予定です。企業から多くのアドバイスをいただく機会もあり、学生にはどう成果をかたち作っていくかという練習にもなりました。

–ほかに、どんなテーマがあるのですか?

札幌市の路面電車の電停・駅前通地下歩行空間(チカホ)の光環境調査と提案設計に、2チームが取り組んでいます。学生が電停やチカホの出入り口をすべて回って、照度計で明るさを測ったり、利用者にアンケートを取ったりして課題を抽出しています。光環境をより良くすることで機能や安全面の改善を図るとともに、電停らしさ・チカホらしさを提案します。電停をテーマにしたきっかけは、私が着任して初めて本学へ路面電車で来た時、電停の幅の狭さや薄暗さに驚いたことです。シニアの方が少しでもよろけたら危険な状態ですし、子どもを連れて並んで歩くこともできない。でも、電停の幅を広げるのは難しいので、光を使って改善できないかと考え、程良く安全な照度や電停のより良いデザインを検討しています。チカホについても、地下を歩いていると外を感じられない、天気が分からないということから、最近は出入り口が非常に重要になってきています。そこで、チカホの出入り口の何カ所かをターゲットに、学生が案を持ち寄って話し合っています。

–ファサードエンジニアリングに関するテーマは?

ファサード関連の製品開発の一環として、千葉県のフィールドに実験用の複層ガラスの窓を作り、雨や風などの外部環境でどう変化していくかなど測定調査を行っています。ほかに、スマートフォン画面に使われているような薄板ガラスを建築に使えないかと、メーカーと一緒に研究を始めています。異なる産業の技術を建築に取り込むことで需要を増やし、スケールメリットによるコスト削減や省資源化、これまでにない形を作り出すことなどにつなげられます。また、ガラスなどの生産の分野ではロスや歩留まりなどを考慮する必要もある。デザインする時に形のことだけではなく、生産などのプロセスも考え、技術を知った上で提案できれば、サスティナブルな建築につながっていくと思うんです。

–学生にプレゼンテーションの力もつけてほしいそうですね。

そのために、2カ月に1回各チームに進捗状況をプレゼンしてもらっています。話の進め方や時間の配分なども含め、自分の言葉で相手と考えを共有できる力を磨いてほしい。学生には大学最後の1年間で、ある分野についてはとにかく詳しいとか、プレゼン能力があるとか、社会に出た時の強みを何か持ってもらいたいと思っています。特に建築の場合、専門家ではない施主にスケッチや図面、CGや模型などで設計をいかに分かりやすく伝えるかが肝心です。研究活動のすべてが、仕事のトレーニングになるようにと考えています。

工学部建築学科 三澤 温 教授
[専門分野]ファサードエンジニアリング、サスティナビリティ、ガラス建築の設計技術、身近な環境の再検証  [主な担当科目]建築環境計画Ⅱ・Ⅲ

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