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04 2024

建築史を学ぶとは 「建築とは?」「人類とは?」 を考えること。

工学部 建築学科 清水 信宏 准教授

建築は、社会や文化、技術、環境といったさまざまな背景のもとで成立します。「過去を知り、その建物がどのように生まれてどう変化したのか。その背景が見えるのが建築史の面白さ」と清水先生は語ります。専門は、エチオピア北部ティグライ地方の建築と都市の歴史。ティグライ地方の伝統住宅は近場で採れた石を使って建てますが、その「あたりまえ」がつくる「力強い風景」に感銘を受けたからでした。

建築を通して人類の歴史を追いかける。

—建築史とは、どんな学問でしょうか?

建築史とは建築の過去を扱う学問です。高校生の皆さんの中には、建築のデザインと歴史ってあまり関係がないというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実はけっこうつながりがあります。それというのも建築は、社会や文化、技術、環境といったさまざまな背景のもとで成立するからです。材料も、構法も。

私が担当する建築史の授業(西洋建築史・日本建築史)では、建築や都市・集落がどのような変遷をたどってきたのかを理解し、建築意匠(デザイン)と環境との本質的なつながりを考えます。建築を通して人類の歴史を追っていくと言い換えることができるかもしれません。建築や都市の過去を学びながら、自分なりに「建築とは?」「人類とは?」を考えるきっかけにしてほしいと思います。

—建築史を学ぶことは、建築をデザインする上で重要ですか?

シンプルに面白いと思うんですよ。面白いということは、建築を考える上で役に立たないとは思いません。やはり「今」を生きていると、今の時代のコンテクスト(文脈)にものの見方が引っ張られてしまう側面があります。それはそれで重要なことだと思うのですが、一方で過去を知ると、思いもしなかった世界観がそっと顔を出してくることがあります。そこからどういう建物が生まれ、それがどう変化していったのか、そういう背景が見えてくることが建築史の面白いところです。

歴史って、ある意味で受け手に委ねられています。それを知った人がそこにどんなポテンシャルを見いだし、それをどう使うのか。受け手側の問題なんです。私の講義も、ある学生にとっては何かの役に立つかもしれないし、別の学生にはなんの役にも立たないかもしれない。「ああ、面白いな。だったらこういうのをつくってみよう」という人がいたとしたら、それはその人の役に立っていることになります。あるものを受け取ってそれをどう生かすかはその人次第。だから学生には、「講義の内容から問いを生み出してほしい」と言っています。

エチオピアの力強い風景に魅せられて。

—主な研究テーマについて教えてください。

エチオピア北部のティグライ地方における建築と都市の歴史を主に研究してきました。ローカルな建築や都市の技術が、いかにその土地の環境や社会と結びつきながら生まれ、変化を遂げてきたのかを考えています。具体的には、ものとしての建築の歴史、伝統住宅の造り方、建築に関するローカルな技術や知識のあり方、都市形成の歴史、近年の都市化のありようなどを扱ってきました。

—なぜ、エチオピアのティグライ地方を研究しようと思ったのですか?

とりたててすごいきっかけがあったわけではないんです。大学時代の指導教官がエチオピアの研究をやっていて、シラバスを見たときに「現地へ行けるかも」と思ったのでその研究室に入った、それがはじまりです。

初めてティグライ地方を訪れたときに見た風景が衝撃的でした。木もほとんど生えないような岩山に、石造りの建物が建っていたんです。力強い風景でした。でも、考えてみればあたりまえです。そこに石があるから、石で家を建てる。日本で生まれ育った私には見えていなかったのですが、そのあたりまえに気がつきました。

でも、そこをもう少し踏み込んで調べていくと、建材となる石は近くから切り出して持ってきたものですが、それを成形する工具であるハンマーには「マルテッロ」というイタリア語の単語が用いられていることが分かってきたりします。エチオピアにおける工具の利用には何かイタリアが大きな役割を演じているのではないかということが見えてきます。ローカルとグローバルがつながってくるわけです。

その土地の過去を知ることは、その土地の個性を見いだすことにつながります。その意味で、課題や問題点だけではなく、ポテンシャルを掘り起こす可能性を秘めています。歴史はさまざまなスケールの空間や時間軸に開かれた学問です。ローカルを考えていけばやがてグローバルな問題に突き当たることになりますし、過去を明らかにしていくことと未来がどうなるかを考えることは裏表の話でしかありません。建築を考えることは人間を考えることと地続きで、都市を考えることや地球を考えることともつながります。…と言われても、今はまだしっくりこないかもしれません。大学で学んだり、研究をしたりする中でそういうことを感じとってもらえたらいいのかなと思います。

—最後に、高校生に向けて大学生活を有意義にするためのアドバイスをお願いします。

とりあえずやってみる。これは、私の指導教官がよく言っていることです。気になることがあれば、とりあえずやってみればいいし、気になるところがあればとりあえず行ってみればいい。そこから何かが開けるかもしれません。もちろん、そうじゃないかもしれないけど。ぜひ、いろいろな場所へ行って、いろいろな空間を経験して、楽しんでください。世界観の広がるような体験と、めぐりあうことができますよう。

工学部 建築学科 清水 信宏 准教授
[専門分野]建築都市史 [主な担当科目]西洋建築史

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