03
28 2023

<TOPIC経済学部> 集大成であり自己表現。 卒業研究論文は、自信になる。

経済学部はそれぞれの関心や問題意識をもとに、より多くの学生が卒業生研究に取り組んでくれることを期待し、2019年度に「江川賞」を創設。優秀な論文を執筆した学生に表彰状・副賞を贈っています。卒業研究は本学部での学びの集大成で、教育労働、ふるさと納税、十勝畑作農業、再生可能エネルギー、豪雪のまちづくりなど、毎年、多様な論点が見られます。第3回となった2021年度は、経済学会(経済学部教授会)の審議の結果、6論文を表彰。その中から今回は、既に卒業して社会人となった2人にご協力いただき、卒業研究に取り組むことに意欲を持っている在学生4人とともに座談会を実施しました。なお、この賞の財源には、本学部第4期(1957年3月)卒業生・江川久洋氏による寄付金を活用しています。

[江川賞受賞·卒業生]
株式会社つうけんアドバンスシステムズ勤務 中村 海斗
経済学部1部経済学科2022年3月卒業 (北海道札幌手稲高校出身)

北海道旅客鉄道株式会社勤務 佐藤 圭祐
経済学部1部地域経済学科2022年3月卒業(北海道石狩南高校出身)

[在学生] 
経済学部1部経済学科4年 上谷内 陽平 (北海道帯広緑陽高校出身)

経済学部1部地域経済学科3年 菅原 颯太 (北星学園大学附属高校出身)

経済学部1部地域経済学科3年 堀 雅気 (栃木県立石橋高校出身)

経済学部2部地域経済学科3年 坂元 凌河 (札幌静修高校出身)

「江川賞」が論文執筆のモチベーションにも。

–まず、「2021年度江川賞」を受賞したお二人それぞれの論文テーマを教えてください。

【佐藤】 僕のテーマは、戦後北海道の「分県」構想に関する研究。そもそもは、道央や道北などの北海道の地方区分の変遷を調べたいと思ったんです。ところが、実際に始めてみるとあまりにスケールが大きくて、より取っつきやすいテーマを探して4年次の12月頃に変更しました。北海道開発史の側面を「歴史」からアプローチして明らかにしようという点は変わらなかったので、北海道立図書館や大学の附属図書館で集めていた資料をもとに、1月の10日間ぐらいで一気に論文を書き上げました。書いている時は結構きつかったですが、一方で論文というのは意外と創造的というか、自己表現もできるんだなと感じました。そこにある真実を拾いにいくだけではなく、テーマ設定や切り口によって、たとえ同じテーマでも人それぞれのものができるんだろうな、と思ったんです。大学生活の最後の最後で、学問って面白いもんだなとも思えました。

【中村】 僕は「現在バイアス性がお金の使い方に与える影響について」をテーマに、現在バイアスと貯金行動の関係性についてまとめました。現在バイアスとは、例えばバイトですごくお金を稼いでいるけど貯金できないとか、将来の利益よりも目先の利益を優先して行動してしまう人の傾向のことをいいます。所属していた佐藤敦紘先生のゼミが主に行動経済学を扱っていたので、この分野で卒業論文を書きたいと思い、いろいろな本や論文を見ていきました。今、「現在バイアス」というワードを聞いた時、皆さんも「何?」となったと思うんですが、実際の例を聞くと割と身近に感じるじゃないですか。そういうことに面白さを感じて、テーマにしたところもあります。僕の場合、テーマを決定してから在学生専用サイト「G-PLUS!」を使って12月にアンケートも実施。結果の集計·分析をした上で、そろえていた材料を組み合わせて文章を考え、締め切りの1月末に向けて1カ月弱ぐらいで執筆しました。

左:中村さん 右:佐藤さん

–論文を書こうと思ったのはどんな理由でしたか?

【中村】 江川賞を受賞したゼミの先輩から話を聞いていましたし、僕らの代のゼミ生は書く人が多かったので、僕もやろうかなと。それに僕は、4年間ラクロス部で活動していて、大学でやってきたことがそれ以外あまりないなと思ったんです。勉強でも何か形として残せればというのもあって、論文を執筆しようと思いました。

【佐藤】 僕は、もともと書くことが好きでしたし、論文は書こうと思っていました。自分が大学でやってきたことを残せるならと、ぼんやりとですが考えていました。

–実際に論文に取り組んでみて、いかがでしたか?

【佐藤】 ほかの誰もやったことがないところに切り込んでいく楽しさというのは、あったと思います。北海道という土地の歴史が自分につながっていく、という感覚もありました。僕はもともと歴史に興味があって、戦後の北海道史と一緒に歩んできた北海学園大学の歴史なども、個人的に調べていました。ただ、卒論を書く場合には、資料がなかったらどうしようもないので、結論が出せそうかというより、資料がありそうかどうかが大事だと思うんですよね。僕も、資料がありそうだからこのテーマを選んだところがあります。

【中村】 資料がなかったり、自分が書きたいことの根拠とするものがないと、大変ですよね。信憑性が担保されている論文などの資料を準備ができると、書く上ですごく楽になると思います。僕は文章を書くのがあまり得意ではなかったのですが、執筆したことで文章力が少しは鍛えられたんじゃないかと思います。

 –受賞についての感想を聞かせてください。

【佐藤】 中間発表会でほかの論文も見ましたが、やっぱり新規性では誰にも負けていないなという自信があったんです。そこを評価していただけたのかなと思います。僕が所属していたゼミの濱田武士先生が、自由にやらせてくれたのもありがたかったです。論文を書くにあたって、江川賞は当然、頭にありました。モチベーションとして、やはり大きいですよね。取れて良かったというのもありますが、先生たちに評価してしてもらえたことで、自己評価は間違いではなかったとほっとした感じもありました。

【中村】 受賞は佐藤先生のおかげだと思っています。江川賞の審査は理論、統計、教育などに分野が分かれていて、僕は理論の分野で書こうと思っていたんですが、経済学部はどうしても理論を選ぶ学生が多いので、社会政策にしてはどうかと先生が助言してくださって。それで、アンケートで親の年収などによって1部·2部の傾向が分かれるかなどを分析し、学園大に2部があることのメリットについても触れて、社会政策の分野として扱えるようにしました。だから、比較的選ばれやすかったんじゃないかと自分では思っています。そもそも論文を書くからには、賞を目指したいとは思っていました。自分が納得いくまでやれて、結果として賞も取れて、頑張ったかいがありました。

テーマもアプローチも自分次第。まずやってみよう!

–在学生の皆さんから、質問はありませんか?

【上谷内】 僕は今、先行研究を集めている途中なんですが、違いをどう出していこうかと考えています。自分なりの論文に持っていくために、どんなところを工夫したかお聞きしたいです。

【中村】 僕がやっていたことは、参考にしたい先行研究を見て、どういうことを研究しているか簡単にポイントを書き出す。そうやっていくつも比較していくと、今までにない組み合わせが出てくると思うんですよね。僕の場合は、例えば現在バイアスと家計の消費や学生の課金行動という研究はあっても、現在バイアスと貯金という組み合わせはなかったので、それで書こうと思いました。あとは、範囲を限定するのもありかなと思います。一般の人々を対象にするのではなく、せっかくなので大学の環境を活用することも意識してみるといいかと思います。

左から、堀さん、坂本さん、菅原さん、上谷内さん

【菅原】 僕はまだ3年生なので、うっすらとテーマが決まってきたぐらいの段階です。これから資料とか膨大なデータを集めて執筆するとなると、長期間にわたるので何かしら抜け落ちそうで。お二人はどういうふうに資料集めやノート作りをしていましたか?

【中村】 僕の場合は、それぞれの論文のポイントをテキストファイルにまとめていました。そうすると検索ができるので、例えば気になるワードからどの論文に書いてあったかを調べられます。それで、その論文をまた詳しく読んで、知りたいことが分かったらテキストファイルに情報を追加していく。そういう感じでやっていけば、無駄な情報を省いて、必要な情報だけを残すという整理ができるんじゃないかなと思います。

【佐藤】 僕は資料数があまり多くはなく、でも時間はあったので、とりあえず総当たりで読むタイプでした。読み込んで頭の中でこね回さないと考えが思い浮かばないので、使う材料を取り出すというよりも、とりあえず材料を自分の頭の中に入れて、必要になったら取り出すみたいにしてやっていました。でも、それだと無駄があるので、取りこぼしもあったと思います(笑)。

【菅原】 並行して就職活動もしていたと思うんですが、時間的にも厳しいものがあったのでは。僕は公務員志望なので、4年次前期ぐらいまでは就活に専念して、後期から本格的に卒業研究を始めようかと考えているんですが、先輩たちから見てその計画はどうですか?

【中村】 全然問題ないと思います。聞いていてすごくいいなと思ったのが、一度卒論について考えてから就活に入ると、卒論について話せるんですよね。大学でやったことは何ですかと聞かれた時、卒論の準備をしていて、こういうことを書こうと思っているんです、と。それに、準備をしていく中で例えば情報整理が得意だ、ということに気づくと、自分の長所として語れたりもします。そういうことをうまく組み合わせると、就活にすごく使える。就活のセミナーみたくなっちゃいましたが(笑)。それに、卒論を書きますと宣言しておけば、先生も気にかけて状況を聞いてくれたりするはずです。

【佐藤】 卒論のことばかりやっても疲れちゃうと思いますし、並立してやるぐらいがいいかもしれない。ちなみに僕は、公務員志望で勉強はしていたんですが、いちおう民間も視野に入れて考えていました。就職活動期間は卒論のための資料集めと言いつつ、公務員試験に役立てる意味で北海道研究をしていたところもあります。

【坂元】 僕は論文を書こうか、まだ迷っています。そもそも就活という大きな壁があって、卒論まで手を出せるのかなと思って。それと気になっているのは、教科書でも資料でも小さい文字でいっぱい書いてあると全然頭に入ってこなくて、資料集めとかの自信がないんです。どちらかというとフィールドワーク型の人間で、地域研修とかの方が合っていると思っているので、そういう自分の経験したこと、肌で感じて得た知識を文章に起こすという形の卒業論文はありなんでしょうか?

【佐藤】 僕は全然ありだと思います。例えば、僕のいた濱田ゼミでは2-3年で地域研修に行くので、その研修先にもう一度行ってさらに調べてもいいし、2-3年でまとめたレポートを組み直してもいいのでは。フィールドワークが好きでまとめているなら、それを論文の作法みたいなのに従って書くというふうに、担当の先生と協議していったらいいんじゃないかと思います。そうすれば、大学生活で卒業研究をやったぞという自信も持てるはずです。

【中村】 経済学科はどちらかというと理論メインで文章を書くことが多くなると思うんですが、地域経済学科は特色として地域研修があるので、そうした機会のインタビューなどで得た情報をもとに論文を書くというのは、大いにありだと思います。地域研修では実際に道内の市町村に出向くので、その時点で論文のオリジナリティはすごく出せると思うんですよね。悩んでいるのであれば、書いてみては。

【堀】 僕も、文献を読むのがとても苦手です。批判的な意見や表現に振り回されて、読み進めるのが怖くなってしまうんです。やはり文献を読まないと、研究は難しいのかなと、不安になってきました。

【佐藤】 論文という在り方自体が、何かに対する批判を必然的にある程度含んでしまう部分があると思うんです。真実を見つけていくというのは、真実ではないものと真実を区別していくわけですから。だから、そこの批判は単に真実ではないから退けていくんだとシステマティックに考えて、人の顔を想像しなければいいのでは。たぶん批判って人の悪感情みたいなものだと思うので、そこを気にしなければ意外とやっていけるかもしれない。

【中村】 例えば、ある論文に対して、その意見の逆の立場に自分が立ってみるとどうでしょう。この人はこういう視点からは批判しているように見えるけれど、別の視点に立ったら批判することじゃない、みたいに見え方が変わってくると思います。そうしたところで、論文のオリジナリティを出せるようになるんじゃないかと思います。

最後に、卒業研究論文を書くことでどんなものが得られると思いますか?

【中村】 僕が卒論を書いた動機は、大学で何をしてきたか自分自身に問いかけた時、やってきたものが少なかったので、そこを増やす意味もありました。社会人になって大学で何をしてきたかと聞かれたとして、もしすぐに答えられないのであれば、卒業論文を書く価値はあると思います。それがあると自分のことを話せるので、コミュニケーションの上ですごく大事になるはずです。もし書き上げられなかったとしても、そこまでの過程が大事だと思いますし、とりあえず始めてみると意外と書けるかもしれない。そこで頑張れると、大学生活の最後の1年をより色濃く思い出に残せるんじゃないかと思います。

【佐藤】 卒論をおすすめするとしたら、自分が大学生活で何かを成し遂げたという達成感、自己肯定感を得られること。自分というものを表現する便利なツールとしても、卒業研究はあると思います。それから、一方的にお世話になってきたアカデミックな世界に対するほんの少しの恩返しみたいなところもあると僕は思いました。よく本を読んできましたし、これまで先人たちから学んできたものを、自分というフィルターを通してちょっと返せたのかなと思っています。

【上谷内】 先輩たちの話を聞いて、論文に取り組むことの意味が改めて分かって良かったです。

【菅原】 就活と同時並行でできるのかとか、心配だったことにも答えていただいて安心できました。

【堀】 僕は鉄道が好きで、同じく鉄道好きの藤田知也先生のゼミに所属しています。卒業研究のテーマも、現在の北海道のローカル線問題を取り上げたいとぼんやりとは決めています。自分の学びの集大成として、卒業論文を本気で書きたいと思います。

【坂元】 僕たちが1期目のゼミで先輩がいないので、貴重な話を聞く機会になりました。聞いたからには論文を書かないと、みたいな感じですが(笑)。まだ迷いはありますが、地域研修の経験を生かしたテーマで、やれるだけはやってみようかなと思っています。

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