集団の心理を理解すると 社会問題の解決糸口がつかめる。
「基礎、応用ともに心理学分野の講義が充実しているのは、経営情報学科の大きな魅力です」と話す中川先生の専門は、社会心理学。「集団心理の分析が、主要な社会問題解決の糸口になるかもしれない」と、集団に対する協力行動を研究しています。
ファンの集団心理が面白い。
——先生の専門は「社会心理学」。どんな研究をされているのですか?
主な研究テーマは「集団に対する協力行動」です。人が自分の所属する集団に対して協力するとき、どのような心理メカニズムが働くのか、どんな状況だとそのメカニズムが働きやすくなるのかを研究しています。
私たちは皆、何かしらの集団に所属していて、社会的なカテゴリーで物事を考えたり行動したりすることがありますよね。例えば、会社だったり、大学だったり、好きな野球チームのファンだったり。心理学の専門用語で、自分の所属する集団を「内(ない)集団」、所属してない集団を「外(がい)集団」といいます。私の研究では、野球チームのファンを対象とし、ファンがどういう心理メカニズムをもって同じチームのファン(内集団)に協力するのかを検証しています。
——いわゆる“ファン心理”というものでしょうか?
例えば、野球チームのファンは、大きく分けて2つの心理メカニズムの働きから、同じチームを応援する他のファンに協力することがわかりました。一つは「他のファンから将来的な見返りがあるだろうと期待して協力する」、もう一つは「同じ野球チームのファンをひいきして、ほかのファン集団よりも優越させよう(○○ファンより、△△ファンのほうが優しいなど)として協力する」というものです。そして、自分が協力する際に、何らかのコスト(お金や労働力)がかかることがわかると、「見返りを期待する」という前者の心理メカニズムの働きが、より優勢になることがわかりました。これは、野球ファンだけでなく社会に実在する集団、会社組織や町内会などさまざまな集団に応用できると考えられます。
「情けは人のためならず」を実証
——「見返りを期待する」ことの意味は?
社会心理学ではしばしば、自分の持っているお金などを他者にどれくらいあげるかで協力行動を測定することがあります。私の実験ではペアを組んでもらい、自分と他者(相手)の集団属性が互いに、あるいは一方的にわかるかどうかによって自分のお金をいくら差し出せるかが変わるかを検証しました。同じチームのファン同士だと互いにわかる場合の方が、見知らぬ人よりも相手にお金を渡せるという行動が見られたり、困っているときに助けてあげる行動が見られたりしました。これは、単純にその相手からの見返りを求めているのではなく、同じファン集団に所属する人を助けたら、その内集団の中でそういった文化がつながっていくだろうという期待で協力しているのです。それと同時に、相手が同じチームのファンだとわかれば一方的に協力するという行動も見られます。
——そうした集団の心理は、社会のいたるところに影響しているのですね。
私の研究テーマは、内集団に対する協力行動ですが、これは裏を返せば外集団に対する協力が減るかもしれないことにつながります。これが激化してしまうと、集団間の対立や戦争といった社会問題にも発展します。「なぜ」「どのような」状況で協力するかというメカニズムがわかれば、その問題の発生を抑止することができるかもしれません。協力行動の発生をおさえる、つまり集団間の平等を実現する方法を提案できると考えています。
もう少し小さな枠組みで考えると、皆さんが一般企業に就職して、会社という集団に属すとします。同じ部署のメンバー同士が協力しなければいけない状況で、他の部署とも対立を生まないようにプロジェクトを進めることに役立つかもしれない。そう考えるとわかりやすいかもしれませんね。
——経営学部で心理学を学ぶことの意義は?
社会心理学は広く「社会」という形で、さまざまな分野に関わっている学問です。先ほど説明したように、集団から受ける影響には、いろいろなものがあります。学生生活に関することに当てはめると、自分の興味で講義を選ぶのではなく、仲のいい友だちの意見に流されて決定してしまうこともあるでしょう(何の気なしに受けた講義が面白かったということも)。大学だけでなく、アルバイト先、サークルなど多くの集団に属すことができるのは、大学生の特権でもあります。集団の中に積極的に身を置くことで、楽しむのはもちろんのこと、他人の考えや振る舞いを知る学びの場として活用することができます。経営情報学科は心理・人間行動のコースがあり、実験を含めて講義が充実しています。卒業と同時に認定心理士の資格を取ることも可能です。認定心理士になると、日本心理学会が主催するイベントに参加することができ、社会人になっても学びの場が用意されています。就職した後も、社会に属する以上、心理学で学んだことは決して無駄にはなりません。
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