03
26 2024

コンピューターでも 不可能な解析に 紙とペンで挑む。

工学部電子情報工学科 船川 大樹 准教授

船川大樹先生は、光子などの粒子がランダムに動く描像「量子ウォーク」のエネルギー(スペクトル)の解析に取り組んでいます。この解析はコンピューターによる計算が不可能なため、紙とペンだけで考えに考えて計算や理論構築を進めるのだそう。船川先生の授業では、わかりやすい例を用いながら、高校数学とは異なる奥深い数学の世界の入口に触れることができます。

量子ウォークのスペクトルを解析。

–船川先生が取り組んでいる研究について教えてください。

花粉がランダムに動くように、光がふらふらと動くときの動き方や行き先、光が持つエネルギーのようなもの(スペクトル)などを数学だけで求める研究をしています。こうしたふらふらと動く描像は「量子ウォーク」と呼ばれる数理モデルで数式化されます。

この光の動き方(量子ウォーク)はさまざま考えられますが、動き方を固定してそれに対する現象(たとえば「光子が十分ランダムに動いた後、どこにどのようにとどまるか」や「ランダムに動いた光子の存在確率の計算」など)を研究するだけでなく、さまざまな動き方に対して使える一般的な定理の構築も行っています。

私のアプローチの場合、コンピューターによる解析はできないので紙とペンだけで研究を行っています。

–紙とペンだけで!? どうしてコンピューターでは計算ができないのですか?

実はコンピューターで計算できないものは結構あるんです。例えばこの空間は3次元ですよね。3次元の世界のことであれば、コンピューターは素早く計算できます。ところが、私たちが扱うのは無限次元空間上の作用素で、無限のものはコンピューターでは計算しきれません。だから私たち数学者は、紙とペンだけで考えに考えて計算や理論構築を進めます。

–量子ウォークは、どういったことに応用できるのでしょうか?

量子ウォークは量子コンピューターや、トポロジカル絶縁体という表面だけ電流が流れて内部では流れない新物質の解析などへの応用が期待されています。

量子コンピューターという言葉自体はここ最近、話題になっているので聞いたことがあろうかと思います。量子コンピューターは量子探索アルゴリズムと呼ばれる計算方法を用いた計算機です。

たとえば箱が100個あって、その中に1個だけ宝が入っているとします。箱を1つずつ開けていけば、100回で必ず宝は見つかります。それが今までのコンピューターのやり方です。それに対して量子コンピューターは10回でほぼ見つけることができます。ものすごく速いんです。n個あったら√n回で宝を見つけられる。その計算手順というのが量子探索アルゴリズムで、こうしたアルゴリズムを実装するコンピューターの開発が世界各国で進められています。

今まで計算できなかったものまでたちまち計算できるコンピューターや、これまで使われてこなかった新物質ができたら、人々の生活は劇的に変わるでしょう。私たちの研究がこうした技術革新に貢献できる日が来るかもしれません。

考えることを楽しんで。

–高校までの数学と、大学で学ぶ数学はどう違いますか?

数学というとゴリゴリ計算をしたり、公式を覚えたりといったイメージがあるかもしれませんが、大学の数学はこれとはかなり異なります。大学の数学はちょっと哲学めいているんです。大学の数学では、調べたい物事に対してまずは正しい定義の導入から始めます。その次にその定義から計算を進め、調べている対象が持つ性質を見抜いていきます。たとえば距離を取り扱うときには「距離とはどういうものか?」を考えながら距離を定義することから始めます。哲学めいていると表現したのはそのせいです。

また高校数学ではやらなかった範囲にも足を踏み入れます。確率統計の授業では、離散型のほかに連続型の確率変数も扱います。離散型というのは、例えばサイコロを振るときの目の出方です。サイコロの出る目は1、2、3、4、5、6というように指折り数えられる数字です。こうした飛び飛びの値をとることを離散型と呼びます。それに対して大学で習う連続型の確率変数は時間や面積のように連続する数を対象とします。「100mを走って14秒ジャストになる確率はいくつですか?」と問われたとします。ラフに言えば、14秒ジャストというのは14.000000000…秒なのでそれからちょっとでもズレたらジャストといえず、「14秒ジャストになる確率」は0なんです。

授業では、できるだけわかりやすい例を挙げながら、数学の世界の広がりを味わってもらいます。心配しなくても、高校までに習った数学を振り返り、思い出してもらいながら進めるので大丈夫です。

–最後にメッセージをお願いします。

大学では考えることを楽しんで授業を受けてみてください。大学は難しい学問を学ぶ場所ですので、誰しも壁にぶつかります。ぜひとも考えることを放棄せず、頑張ってください。物事には「そうなる理由」があり、その理由を考えると学業はとても楽しくなります。また考えることを通して、忍耐力や考察力などの日常生活で使われるいろいろな力が培われます。このように考え続けることで、自分自身が磨かれて社会でも役立てるようになるでしょう。学生の間はとにかく考えることを楽しんで、困難に立ち向かえる人になってほしいと思います。

工学部電子情報工学科 船川 大樹 准教授
[専門分野]数学(関数解析学) [主な担当科目]コンピュータ科学 確率統計

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