奨学金どうする!? そこから見る経済学もある。
世の中いろいろな人がいる!そこで必要となる社会政策とは?
―担当の「社会政策」では、私たちの暮らしの大切な課題が含まれています。でも、税とか年金の話題は学生にはまだちょっと遠い?
そうですね。例えば大学1年生からアルバイトをしている学生は多いのですが、源泉徴収票を見て、自分がどのような税を支払っているのかはほとんどチェックしていません。しかし、社会保障制度は実にさまざまな税や社会保険料を用いながら運用されています。こうした仕組みを知ることは、社会に出た時に必ず役立ちます。年金もぜひ「自分ごと」だと思ってほしいのです。なお講義では、みなさんの関心の高い奨学金の話もします。「もし大学を出ることでスキルを身につけ、生涯賃金が増えるなら、学費は本人が負担すべき」というのがシンプルな経済学の答えです。しかし実際はどうでしょうか?
―全部自己負担というのは難しいですね…。
ええ。そもそも日本は教育に対する公費負担が小さい国です。奨学金は貸与型が一般的で、返済不要の給付型は少ない。ここで参考になるのが、欧州の社会政策をめぐる思想『社会的投資国家論』です。これは、主に若者や現役層を対象とする社会保障や教育政策の充実を、その人(=人的資本)への社会的投資として考えるもの。手厚く普遍主義的な児童手当や教育によって人材を育成すれば、社会全体に”正のリターン”をもたらすと考えるわけです。ただし一人ひとりに奨学金をすぐ返してといっても、卒業後にうまく仕事を見つけられない人もゼロではありません。ここで大切なのは、一人ひとりに短期的な投資のリターンを求めないこと。社会全体で投資して、学生たちの活躍を通じた経済の活性化や税収の増加をリターンと捉えるべきです。
―なるほど。ちなみに、これからの社会はどうなっていくのでしょうか。
今後は、人工知能の発達などで、仕事自体が変化していくことも考えられます。ここでポイントとなるのは、新しい知識社会で誰がどのように光るかは、今の時点ではなかなか分からない、ということです。例えばかつて、ここまでインターネットが発達することは考えられていませんでした。今後も試行錯誤しながら、新しいサービスやイノベーションをもたらす人が現れるでしょう。これをふまえれば、まず賃金が一定以上の水準を超えた人から奨学金の返済を始めてもらう、という仕組みも考えられます。
―社会政策を考える上でポイントとなるのは?
まず、世の中は絶望するほど悪い人ばかりじゃないけれど、みんなが他者のために率先して無償労働するわけでもない。そうした極めて現実的な点から考察を行うのが経済学です。ただし社会政策の目的は「人々の福祉の向上」にあります。そのため、社会的弱者に寄り添う視点も大切になってきます。なお最近では、福祉を受給しながら農作業など軽度の労働に就くことで、生活リズムが改善したり、自己肯定感が上がったという取り組みが注目されています。これらは「半就労・半福祉」「中間的就労」と呼ばれますが、今後はこうした社会政策がますます重要になると考えています。
「社会」をみる眼をやしなう
―授業の中で奨学金を取り上げると、学生の反応は?
いつも以上に真剣に聴いてくれます。学生には、「自分はなぜ4年制大学に進学したのか」ということを改めて考えてほしいですね。なお、講義ではほかにも具体的な話を取り入れています。昨年は1部・2部とも若者支援活動をされている方に来ていただき、若者支援の理論と現場の取り組みについてご講演いただきました。
―現場の声を聴ける機会もつくっているんですね。
そうですね。例えば経済学部では、民間と並び公務員を志望する学生も多くいます。しかし実際に市役所へ就職すると、まずどのような仕事に就くかは意外と知らない。そのため、私のゼミでは本学部卒業後すぐに市役所の生活保護課に配属された方に来ていただいています。先輩の話から、自分の将来についてぜひ考えてもらいたいです。
―経済学というと大きな枠組みで理論を考える印象ですが、そうとも限らないんですね。
はい。私は理論のための理論ではなく、今の私たちにとって有益な示唆を与えるものを主な研究対象としています。学生に研究の楽しさを伝えられればと思います。
―専門的な知識に加えて、学生に身につけてほしいことはありますか?
興味のある一般教育科目をぜひたくさん取ってください。生きていく上で知っておいた方がいい知識を得られるチャンスです。その上で経済の専門科目を受けると、背後にある人々の心理や社会構造が、もっと深く見えることもある。幅広く学べる環境なのですから、ぜひ活用してください!
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