良い建物とは? 常に自問しながら 構造材に北海道の木を使う技術を開発。
「良い建物とは何か」。建築の世界では、そう自問し続けることが必要だと植松先生は言います。さまざまな要求性能に対して、総合技術で形にしていくため、建築学科のカリキュラムは多岐にわたります。「”役に立たせることができない” 人はいても、”役に立たない”講義はありません。我々からの挑戦状と思って、全力でぶつかってきてください」。
【研究】木質構造部材の活用で森林資源の循環づくりにも貢献
建築学科はシステムデザイン系・環境デザイン系・空間デザイン系の3分野から成ります。どれか一つだけではダメで、この3分野が結びつくことで街や建物は出来上がります。欲張って各分野と積極的に接すると、面白い、やりたいというものが見つかるはずです。私が担当するシステムデザイン系では、建築材料、建築構造、建築構法、建築施工がキーワード。多種多様なものを扱いますが、建築の構造形式や構成方法を考え、その設計を助ける研究の一つが構造設計技術支援。中でも「木」を扱っています。日本、特に北海道は木材が豊富なのにヨーロッパの森林大国に比べて利用率が低く、林野庁は森林資源による産業活性化プロジェクトを実施しています。木を建築の構造材に使うと高く売れるため、管理する人が減っている現状を下支えし、森林資源の循環をつくれるわけです。ただ、木質構造の設計者も北海道の樹種特性を生かした設計データも少ないため、そこを支える研究をしています。
【研究】実験データを蓄積し、設計に役立つ「知恵」を生み出します
具体的には、木はコンクリートや鉄とは違って一体化できないため、釘などの接合具を止めつけるわけですが、割れたり、ねじれたりしてしまう。そうしたことを踏まえて、設計する時に使えるような資料を実験しながら検討しています。今は加工技術が発達し、原木からさまざまな強度の構造材をつくりあげることができようになってきて、住宅だけではなく大きな建築物もつくれます。そうした時には別のデータや設計法が必要になるので、そこを支えられる技術情報の確立も目指しています。高度な設計理論の構築もテーマの一つですが、分かっていることを組み合わせて、誰もが活用できる技術にするための「知恵」を出すことが研究のキーワードになっています。
【授業】免震、揺れについて理論から免震装置開発の経験談まで
今、注目度の高い免震、揺れに関する授業が「建築振動論」。振動学の基礎理論の習得をベースに、それに基づいて展開される動的な外力に対する構造物の応答解析法を理解してもらいます。理論に加えて具体的な事例・計算例をできるだけ取り入れ、地震動を受ける構造物の応答解析法と耐震設計について講義。軽量・薄型でコストパフォーマンスが良く、高い効果を発揮できる免震装置(※写真)を開発した実績もありますから、建物全体だけではなく、例えば美術品や薬品、手術室を守る考え方なども経験をもとに紹介します。大学での学びの主体は学生です。授業を手助けにして参考図書などで情報を集めて整理する。それを理解するためにさまざまな角度から吟味し、反復して習得する時間をつくる。そして、その時間が自分にはどれぐらい必要なのかを考える。大学は、自分を知るための試行錯誤ができる、社会に出る前の最後の場でもあります。
「ありがとう」と言ってもらえる技術開発を目指そう
学生はやりたいことを研究テーマに選べますが、「ありがとう」と言ってもらえる、ニーズのある技術開発が基本です。最初はニーズに応え続けることで自分を磨き、それが認められると自分を主張できるようになって、周りの人にも支えられ、さらに技術を発展させられます。キャッチーな取り組みも時には良いですが、「謙虚さ」と「忍耐力」がすべての基本になることを実感してもらい、目の前の課題と真摯に向かい合う学生を支えたい。もちろん、ユーモアも大切にしながら。そういう研究室でありたいと思っています。最終的に大事になのは「世の中の役に立つことをやる、やり遂げる能力があるか」。目指すものが社会のためになるという信念があれば、努力をいとわず進んでいける。その努力が大きく間違ってさえいなければ、会ったことのない人にも「ありがとう」と言ってもらえる成果になる。それが、「技術者冥利に尽きる」ということでしょう。
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