北極の島・グリーンランドを 通して見えてくるもの。
髙橋先生はデンマーク領グリーンランドを主な対象に、さまざまなテーマを研究。グリーンランドは遠く離れた北極の島ですが、日本と同じような課題も存在し、そこから見えてくるものがあるといいます。髙橋先生をはじめ法学部にはいろいろな国や地域を専門とする先生たちがいて、世界の広さや多様性を知り、理解することにつながるきっかけもたくさんあります。
日本との対比を意識。
ーーそもそもデンマークに興味を持ったのは、先生が小・中学校時代を過ごされた影響があるのでしょうか?
そうですね。幼い頃に親の仕事の関係でデンマークに滞在し、将来、デンマークに関わるようなことができればとは思っていました。その当時からグリーンランドの政治を、とは思っていませんでしたけれど、進路選択のフェーズになった時にはすごく面白そうだなと思い、研究を続けてきました。ちなみにグリーンランドはデンマークの自治領で、人口は約5万7000人のスケールとしてはすごく小さなところです。
ーー研究には主に三つのテーマがあるそうですね。
一つはクジラなどの生物資源の生と死をめぐる規制・管理と、そのグローバル・ナショナル・ローカル相互作用。二つ目は石油・ガス・鉱物などの非生物資源開発と、その現地社会・政治・経済への影響。三つ目に在グリーンランド米軍基地と、北極の安全保障環境の動態分析。どれも私にとって面白いというところが最初にあって取り組み始めたのですが、グリーンランドや北極の専門家として提言などの機会をいただく立場でやってきた結果というところもあります。三つ目は特にそうです。日本には米軍基地問題を抱える沖縄がありますが、グリーンランドにも米軍基地があり、日本の環境と似ているところがある。専門家が少ない分野であるが故に、レアな話と、それをいかに身近な話題に引き付けられるかというバランスも考えるようにしています。
ーー日本との対比も意識されているところですか?
基地問題はまさにそうですし、クジラなどの水産資源を保護すべきなのか利用すべきなのかみたいな非常に分かりやすい対立軸の中で、日本の話と、日本とは遠く離れているけれど似通った事例とを考えたりしています。特に関心を持って扱っているクジラの捕獲枠などは、国際捕鯨委員会などの国際機関での交渉によっていろいろなルールが決まります。日本はそこから離脱しましたが、そうした自分の足元の問題が遠く離れたところで交渉され、フィードバックされるような流れを見ていく時に、日本だけを見ていると手詰まり感が出てしまうのに対して、対比できる事例があると見えてくる世界が違ってくるのではないかと思うんです。
「思考の柔軟性」を。
ーー担当されるゼミナールの「地域研究」とは、どのようなものなのでしょう?
ある特定の国や地域で起こる現象を、視覚や嗅覚など五感を研ぎ澄ませながら総合的/学際的に記述し、理解し、説明する際の研究アプローチです。ゼミは1年次の基礎演習と上級生の演習とを担当しており、両方とも地域研究の優れた論文について学生が分担して準備し、発表するのがメイン。基礎演習の最後には、学生が自分でテーマを選んで発表する形を考えています。上級生の方は、指定の本を使って一緒に議論していく形でやっていこうと思っています。私は本学に着任1年目なので、やり方をいろいろ考えながら進めているところです。加えて、私の専門のスパイスも散りばめたいので、ほかの共同研究者と一緒に作った北極に関連するボードゲーム「The Arctic」ができればと思っています。楽しみながら北極の今を学べるゲームで、これを使ってみんなでワイワイというのを想定していたんですが、コロナ禍で実施できませんでした。状況が落ち着いたら、ぜひ取り入れたいですね。
ーーゼミではどのようなテーマを扱うのですか?
基本的には、二項対立が見えやすいテーマを扱おうという意識があります。例えば、米軍基地に賛成か反対か。そんな簡単な対比はあり得ないですけれど、あえて二項対立が明確なテーマを扱うことで、何が問題なのかとか、これまでの議論を振り返ってみてどういう形で構造化されているのかとか、二項対立の出自を理解した上で、テーマをいかに見るかという視点の置き方に迫っていきたい。
ーーゼミを通して身につけてほしいことは?
思考の柔軟性、あるいは多様な視点の獲得といったところでしょうか。例えばですが、デンマークでは食器を洗う際、すすぎをせずに洗剤がついたまま拭き取るのが一般的なんです。それを、「えっ! おかしいよ」となってしまうところと、そこで育まれた社会の慣習とか広い意味での風俗みたいなものとを、いかに並列的に自分が受け止められるか。そういうマインドというか心の持ち様のようなところを、究極的には考えたいなと思っています。そのネタはたくさん転がっているのですが、なかなか目にする機会がない学生もいると思うので、私ができるだけ持ち込んでいこうと考えています。
ーーそうした学びを含めて、大学と高校は環境が違うと感じるそうですね。
私は高校受験のタイミングで日本に帰ってきたので、高校3年間はある意味新鮮で、日本のいろいろなことが学べました。だけどそれが一気に解かれるみたいな瞬間が大学で、いわゆる暗記をして臨めばそれなりにできたのがそうではなくなり、創造性みたいなものの大切さを身につける環境に身を置くことになりました。研究者の最新の説に触れたり、多様な主張に出合ったりする中で、高校時代にガチガチになったものを解きほぐしていって、これまで培ってきたものをこれからにつなげていく場が大学なんだと、皆さんにお伝えできるのではないかと思っています。
関連記事
新着記事
-
<WORLD>日本とカナダ、カナダと日本。 「グローバル」の本当の意味について考える。
トロントメトロポリタン大学職員卒業生 特集 -
<JAPAN>日本の真ん中で、日本中・世界中とつながる
ラグジュアリーブランド卒業生 特集 -
<HOKKAIDO>北海道にしかない魅力を、日本に・世界に発信
中川町町役場卒業生 特集 -
地域研修を通して SDGsが自分事に
経済学部1部地域経済学科2年地域経済学科 -
<勤務先/寒地土木研究所> 道路や港湾を維持管理して 生まれ育った北海道を支える仕事。
経済学部1部 経済学科卒業生 経済学科 -
<勤務先/NTT東日本-北海道>未来の当たり前を創り出す仕事。 それが、私たちのやりがい。
経営学部1部 経営情報学科卒業生 経営情報学科