「北海道」を表現する 建築の在り方を考えよう。
米田先生は「北海道」に軸足を置き、風土に適した建築形式を考え、発信することを目指しています。学生たちにもそれを伝えながら、一人ひとりが能力や個性を建築作品に反映させてくれることを願って、新たな学びや気づき、視点につながるさまざまな仕掛けを用意。特にゼミナールでは、「北海道を生かすデザインを一緒に考えよう」と呼びかけています。
風土性は武器になる。
ーー北海道らしい建築とは、どんなものなのでしょう?
一般的に北海道の住宅を認識する時には、寒さを前提に断熱性の高さといった機能性を重視する捉え方が多いかと思います。ただ、歴史を積み重ねてきた中で、家の暖かさという機能性は当然として、それだけではない視点や基準が増えてきていると思うんです。高校生の皆さんは、機能性以外に北海道らしさをどう認識しているでしょうか。例えば修学旅行で本州へ行くと、瓦屋根が多いなとか、隣が近くて密度感があるなとか。あるいは塀が多いなと感じるのは、密集した中で領域を確保しようとすると、くっきり分けようという意識が働くからで、塀の中も内部なんですね。でも、北海道は敷地が広めだから、敷地面いっぱいに内部化させるという意識はそこまでない。環境から生み出されるそういう発想の違いがあります。デザイン的なことで影響してくる一つは、窓の大きさ。北海道より本州の方が、開口部が多いイメージがあるかもしれない。断熱性を高める上で開口部はリスクがあるので、住宅を中心とした風景の見え方が違うかもしれませんね。そうした違いは、注意して見れば気づけるはず。でも、ググッと深く入って専門的に学ぶようになると、もっといろいろなものが見えてきて、ディテールに気づけるようにもなります。
ーー北海道以外の地域の住宅との大きな違いというと?
今の情報化社会では全国一律化してそんなに変わらないように見えるけれど、北海道とは何か違いがある。境界の在り方が、やはりテーマになってくるのかなと思います。南の方の地域なら開きっぱなしでも成立するかと思いますが、北海道は冬のことを考えると開きつつも絶対に境界をつくらなければならないし、境界をどう扱うか意識せざるを得ない。境界についての認識は恐らく二つあって、一つは今まで通り北海道にあるべき境界を意識してデザイン化する。もう一つは、本当の境界は絶対的に閉じるんだけれど、本州や沖縄のような”見せかけ”の開放感をつくるという選択肢があると思うんです。
ーー「開放感」は、先生の研究のテーマの一つですよね。
内部空間でいかに開放性を生み出すかは大きなテーマ。例えば、パルテノン神殿には欠損があるからこそ想像する余地がある。完璧ならどうだったんだろうと、想像を喚起されるんですよね。もし住宅の中にそういうものがつくれたら。小さい窓からぐんと広がる風景が得られるとか、すごく限定されるけれど想像させられる。そういう効果を内部でつくることができれば、冬もより豊かな生活ができるでしょう。北海道だから生み出される建築手法みたいなものをもう少し意識的に捉えていくと、もっと発信力が高まるし、北海道の建築としてアイデンティティを主張できると思います。
ーー雪の要素もやはり重要なようですが。
ええ。雪は地形を変えているなと思うんです。生活者はあまり意識せずなじんでいるけれど、1年の半分は地面が高くなる、車道側に壁ができる、あるいはシャープな屋根が雪でふわっとして、違う地形と風景がつくられる。そういう見方を持てると、もっと建築的な表現につなげていけそうな気がします。自らの存在とか表現を伝えようとすると、そういう風土性のようなものを武器にしたくなりますよね。北海道に住んでいるからこそ、伝えられることはないか。違いは絶対にあるんだと再認識していくと、北海道の風景や環境をよりよく伝える建築の在り方がもっとあるかなと感じます。
ここで学ぶ意味がある。
ーーゼミナールでは学生に、風土性のような話もされるのですか?
もちろん。そういう視点を持てると、クリエイティブなことができるかなと。雑誌の写真でアメリカとスペインの建築を見たとすると、それぞれ「らしいな」と感じます。風景が写っていることもあるかもしれませんが、それを含めて「らしいな」と感じる。それを、北海道からも発信できるだろうと思うんです。結果的に建物は同じかもしれないけれど、そこにある空気感とか見えるもので違いが出るし、本質的な違いがあればそれをもっと生かせる。あるいは、そうあってほしいんです。それは、北海道で建築を勉強する目的性、自信を持つことにもつながる。ここから何かを生み出すことができる、ここから世界へ発信しようと言いたいですね。
ーーゼミ生にはいろいろな経験の機会があるそうですね。
卒業設計作品の制作をはじめ、学内外の建築イベントやコンペ、ゼミOB・OGとの交流、さらにオープンキャンパスで高校生に作品のプレゼンなども行います。ゼミ配属は通常4 年次からですが、僕のところでは1年次から関われる環境もつくっています。ほかにもいろいろな取り組みをしてきたのですが、コロナ禍ではどうしても制限があり、具体化できなくなったものも。ただ、徐々にいろいろな企画を回復させていますし、少しでもより良い環境をつくるよう努力しています。
ーーそうしたすべてが、学生たちの設計の力になっていくのでしょうか?
と思いますね。積み重ねによっていろいろな視点も生まれるし、表現する目的性も見いだしてくれる。そういう蓄積が、おのずと結果に反映されているなと毎年、感じます。コロナ禍であっても個人としての表現はいくらでもできるわけですから、ゼミ生たちにはクリエイティブに建築の可能性を追求しようと投げかけています。それを個々人が受け止め、解釈し、作品づくりに生かしてくれていると思います。
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