03
30 2022

「行政法」は 奥深い。

法学部法律学科 鈴木 光 教授

「朝起きてから夜寝るまで、行政法が関わらない瞬間はないのでは」。鈴木先生の専門である行政法は、私たち一人ひとりにとても身近な分野。先生は、その行政法の立場から環境問題にアプローチ。自然環境の保護・管理に関する世界各国の法制度・議論を参考にされつつ、北海道・日本が抱える環境問題に法学の視点から取り組まれています。   ※写真は2019年度のゼミ風景

行政法の立場から環境問題へ。

ーー研究分野の行政法・環境法について教えてください。

行政法は、一つの法律分野。一方の環境法はいろいろな法律分野からアプローチできるもので、行政法のほかに民法、刑法、国際法、経済法、法哲学などの立場からも取り組めます。行政法の立場から環境問題を眺めると、行政立法、行政行為(許認可や裁量など)、行政指導、行政罰、行政計画、国家賠償、行政不服審査、行政事件訴訟、公物管理、地方公共団体など、実にさまざまな視点があります。日本各地には森林伐採・河川氾濫・道路新設・ダム建設・海岸埋め立て・風力発電機乱立・廃棄物投棄・土壌や水質の汚染など、国有地・公有地等の管理をめぐる問題が山積しており、北海道ではヒグマ、エゾシカ、タンチョウ、トド、アザラシなど野生生物との共存やその保護管理の在り方も大きな課題となっています。これらはすべて行政法にかかわる事柄です。自然環境は一体どのような法制度に基づき管理されているのか、国と地方公共団体の役割分担はどうなっているのか、国民はそれらの管理についてどの段階でどの程度の意見が言えるのか、不適切な管理を裁判で争うことはできるのか、などが気になるところです。さらに、世界各国・各地域では、自然環境を保護管理するためどのような法制度が作られているのか、そして、どのような課題が議論されているのかなどを調査・分析し、北海道や日本に活かせる考え方を探しています。環境に対する認識は国や民族により大きく異なり、興味は尽きません。

ーー行政法は、さまざまなことに関わってくるのですね。

そうです。朝起きてトイレに行って水を流す。その水はどこから来るのでしょう。私たちが出す汚れた水やゴミは誰が処理しているのでしょう。通勤や通学に使う道路は誰がつくり、維持しているのでしょう。私たちの生活に不可欠な電気は、誰がつくり、誰がその安全性や送配電網、料金制度などを監視しているのでしょう。また、私たちの人生を考えてみると、妊娠、出生、小学校入学、結婚、離婚、医療機関の受診、年金受給、死亡、火葬、埋葬と重要な節目で必ず行政と関わっています。つまり私たちの生活は朝から晩まで、生まれてから死ぬまで、行政法が関わらない瞬間はないように思うのです。

ーーその行政法が、環境問題とも密接に関わるのですね。

はい。国有地・公有地や野生生物などは、法令上、国や地方公共団体が適切に保護管理することになっておりますが、現実は如何でしょうか。北海道では、野生生物に関する人的・物的被害のニュースがしばしば報道されています。最近では、北海道の海岸や沖合に数百基もの風力発電機を建設する計画が多数提案され、大きな議論が巻き起こっています。環境と行政に関わる話題は枚挙にいとまがありません。

卒業後も見据えてゼミ活動。

ーー「行政法」は公務員を志望して学ぶ学生が多いのですか?

はい。公務員採用試験のために行政法を履修する方も多いです。公務員は、朝から晩まで行政法と向き合う仕事ですので、将来公務員を目指すならば、ある程度の予備知識があった方が良いと思います。

ーー先生のゼミナールの学生も、公務員を意識しているのでしょうか? 

国または地方の公務員志望者と民間企業志望者が約半々といったところでしょうか。本ゼミでは、将来の進路にかかわらず、行政法に関する判例研究や質疑応答に取り組んでいただき、のびのびと議論することを大事にしています。活発な意見交換を繰り返すことで、現代社会の問題に自然と興味・関心を持つようになり、法令に基づいて物事を整理・分析する力や多様な価値観を尊重する姿勢が身につきます。ゼミでは最初に机を片付けて椅子だけにし、全員が車座に座ります。不思議なもので、その方が学生たちの自由な議論が進みます。ただ、コロナ禍ではこうしたやり方ができず、オンライン授業も併用しています。

ーー学期末にはゼミナール論文集を発行されるそうですね。

はい。論文のテーマは、あえて行政法にはこだわらず、皆さん、自分の世界に没頭して書いていただきます。論文集完成後の発表会は、大変盛り上がります。何しろ関心のあることについては話が止まらない方が多いので、行政法の判例研究などとは比較にならないほど楽しく、熱心な発表になります。ゼミの開始当初、消え入るような声で、うつむきがちに「コミュニケーション能力を向上させたいです」などと自己紹介していた学生が、1年でびっくりするほど変わります。口下手だった、人見知りだったという方が前向きに成長していく姿を見られるのは、大きな喜びです。

※2019年度のゼミ風景

ーーマナー講習会などのイベントも行っているとか。

はい。卒業後の生活について早めに意識していただきたいという気持ちから、意図的にそのような行事を組み込んでいます。公務員採用試験や就職活動に向かう動機付けにもなることを期待しています。マナー講習会は、講師の先生にお越しいただき、全員スーツ着用で出席し、お辞儀や受け答えの仕方などを教えていただきます。今は講師の先生を直接お招きできないので、動画で学生に配信しています。4年生による内定報告会も、とても人気があります。先輩たちは失敗談も含めて自分の経験を熱く語ってくださり、それを聞いた後輩たちは、早く準備を始めなければ、と自覚します。身近な先輩たちの話は、大変心に響くようです。

法学部法律学科 鈴木 光 教授
[専門分野]行政法・環境法 [主な担当科目]行政法

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