「財政」は、世の中を より良くしていくために どうするかを考えるもの。
「財政学」は、経済学をはじめ、法学、政治学、経営学などの学問が重なる領域である財政を対象とするため、「世の中に関係することはだいたいテリトリー」と野口先生。扱う範囲が非常に広く、さまざまなアプローチ、テーマに取り組むことができます。経済社会にどのような問題があるのかを把握したうえで、財政の力でどのように修正していくことができるかを考え、提案すること、が大きな狙いといえるようです。
世の中をより良くするためのお金「税」を考える。
–先生が研究されている「国際課税」というのは?
私は財政学の中でも税のこと、特に国際課税について研究しています。国際課税とは、国際的に活動する企業・個人に対する課税のこと。基本的には、国際課税を協調と競争という側面から分析することを仕事にしています。その具体例として現在、注目しているのは2021年10月に136カ国が合意した新たな国際課税ルールです。そもそも国際課税の基本的な仕組みは、今から100年ぐらい前に国際連盟がつくったもので、グローバル化やデジタル化といった経済社会環境の変化に対応できていません。そこで、変化に対応できる制度設計を目指した議論が積み重ねられ、合意に至ったわけですが、課税ベースをどのように国家間で分割するかという課題に関心を持っています。
–国際的なテーマの一方で、例えば消費税は私たちにも身近な税ですが。
日常的な買い物などで、消費税(付加価値税)には10%と8%があると分かっていると思います。10%が標準税率で、酒・外食を除く飲食料品などは軽減税率が適用されて8%。ただ、判断に迷うケースもあって、例えばクエン酸や重曹は、食品として販売されれば軽減税率対象、掃除に使うなど食品以外の用途であれば標準税率対象、が原則です。しかし、どちらとするかは販売店次第というところもあり、販売店によって適用税率が異なるということも実際あります。このような問題があるとはいえ、わが国では現在のところ標準税率が適用されるか軽減税率が適用されるかといった区分問題は、それほど大きな問題とはなっていないように思われます。しかし、例えばイギリスでは、ケーキと普通のビスケットに対する付加価値税率は0%で、チョコレートで包まれたビスケットに対しては標準税率(現在20%)が適用されるという仕組みなのですが、あるチョコレートで包まれたお菓子は、チョコレートで包まれたケーキかビスケットなのかが真剣に争われるということがありました。裁判の結果、付加価値税率0%の適用となりましたが、わが国でも標準税率と軽減税率の格差が拡大したり、軽減税率の適用対象が拡大したりすれば、このような問題が出てくる可能性があります。わが国の消費税がこれからどうなるか注視しています。
–先生はそうした海外の事例を常に意識していらっしゃるんですか?
ええ。特に私は、EUを事例にずっと勉強してきたので。EUは、共通通貨ユーロを導入したり、人やモノの移動を自由にしたりして、一つの経済圏をつくってきました。その中で税制が国によって違うのは問題だということで、加盟国間で税制を収斂させる取り組みを進めていて、私はその研究をしてきたんです。実は今、議論されている国際課税ルールについてはEUではずっと前から議論が始まっており、その頃から注目していました。国際課税には協調と競争という側面があるため、利害の一致するところでは握手し、しないところでは争います。各国ともに重要なお金がかかってくることですから、税収をアグレッシブに取ろうとします。一方、企業もアグレッシブに税負担を回避します。配当を重視するために配当原資を厚く確保したいという意向を持つ株式会社であれば、法人税等を支払った後に残る税引後利益の最大化のために、法人税の支払いをできるだけ少なくしようとするでしょう。また、配当を増加させれば、それはその株式会社の株価上昇の要因になります。このように、法人税は企業の戦略とも密接にかかわってくるため、経営学や会計学とも密接に関係してきます。
–財政学には、いろいろなアプローチがあるんですね。
基本的には、世の中の経済現象、政治現象はすべて分析対象です。しかもそれが、国際、中央政府(国)、地方(道府県・市町村)と3つのレベルであるということです。このように財政学は非常に幅が広いため、そこに難しさがあり、面白さもあります。
テーマはなんでもあり。
—ゼミでは、学生はどんなことに取り組むのでしょう?
財政学の勉強をした後、政策提言型の論文を書くことを求めています。各自がテーマを決めて文献などを読み、どうやったら解明できるかを考えていろいろやってみてもらいます。例えば「ふるさと納税」に関する調査では、JR札幌駅の商業施設で利用客にアンケートを取ったり、道内各地の市町村職員として活躍中の本学卒業生にアンケートをお願いしたりしました。財政学は間口が広いので、テーマはなんでもあり。ゼミ活動を通じて、関心をつくっていってもいいし、もともとテーマがあるなら知識をどんどん深めていってほしいです。
–活動の中で大切にしていることを教えてください。
論文を書いてもらうので、それには現状を診断しなければなりません。財政というのは結局、世の中にある悪いところを財政の力、政府の経済活動を通じて正していく、修正していくということで、修正するためにはどうしたらいいかというのが政策です。それは机上の空論では困るので、実行可能かどうかというところまで考えさせます。公務員志向の学生が多いので、キミらは公務員になったらどう考えるの?と。国民なり道民、市民の立場を意識して、夢物語ではなく、実際にその政策を行うことができるのか考えてもらいます。
–学生たちにどんなことを身につけてほしいと思っていますか?
財政に関する分野について、何か一つ専門家らしい受け答えができるというか、知見を持って卒業してほしいなと思います。そして、ゼミ論文を書く過程で、実際にどうしたらいいか考えられるようになってくれることを期待しています。どうなるかという予想屋はいらない、「どうするか」を意識してほしいんです。そのためには、いろいろな視点から物事を捉えること。あとは、常日頃の勉強です。仕組みはどんどん変わるので、常にアップデートして新しい情報を仕入れる姿勢を身につけてほしい。なお、財政学の授業では、財務省主税局の職員を招いて話してもらう機会を設けています。北海道にいると政策の現場・霞が関とは距離があるイメージになるので、なるべく身近なものとして考えられるような仕掛けもしています。
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