<建築学科トピックス> 研究を通して チームワークも学ぶ
小柳秀光教授の研究室ではスマートエネルギーネットワークの推進をテーマにさまざまな研究を行っています。その一つが「災害時における非常用太陽光発電の必要量調査」です。北海道胆振東部地震で明らかになったように、災害時に停電が発生すれば、必要な情報が得られなかったり、場合によっては生命の危険にさらされてしまいます。その対策として太陽光発電やコージェネレーションシステムの導入が有効といわれますが、例えば太陽光発電を設置する場合、実際にどれだけの発電能力が必要なのかは明らかにされていません。建築学科4年生の山口敏輝さんは卒業研究としてこのテーマを選択。山口さんを含む4人のチームで研究を行いました。
[卒業研究プログラム参加]
工学部建築学科4年 山口 敏輝
災害時に必要な電力はどれぐらい?
——建築学科を志望した理由を教えてください。
【山口】高校時代に世界遺産検定を受け、そのときに上野にある国立西洋美術館が世界文化遺産であることを知りました。ル・コルビジェによる建築ですが、その収まりの良さとか美しさに惹かれて建築に興味を持つようになりました。
——ということは意匠設計に興味があったわけですね?
【山口】1年生のときは「建築=意匠設計」というイメージでした。ですが、建築の環境性能といった話を小柳先生の授業などで聞くうちに、建築を掘り下げた先には環境や設備といった世界が広がっていることを知り、興味を持ちました。
——卒業研究では研究テーマとして「災害時における非常用太陽光発電の必要量調査」を選択します。このテーマを選んだ理由を教えてください。
【山口】高校2年生の時に北海道胆振東部地震とそれに伴うブラックアウトを経験しました。自宅は札幌市内ですが、私の住んでいる地域は電力復旧までに1日半かかりました。早かったほうだとは思いますが、やはりいつ復旧するかわからないので不安でした。もしそのときに太陽光発電を備えていたら、スマートフォンも充電できたし、冷蔵庫が落ちることもなく、平常時に近い生活を維持できたでしょう。ブラックアウト以降、災害対策として太陽光発電やコージェネレーションシステムの有効性が評価されています。ですが、実際にどれだけの大きさの太陽光発電を設置したらよいのかといったことは明らかにされていません。
——確かにそういう数値的な指標というのは見たことがありません。
【山口】はい。それというのも複雑な条件が絡んでくることが原因で、災害時に必要な電力というのは、季節や地域性、家族構成といった条件によって大きく異なります。小柳研究室では2019年に「寒冷地において停電時に何が必要か?」のアンケート調査を実施しました。当時も集計したんですが、私たちはその調査結果を家族構成(5パターン)と季節ごと(3パターン)の全15パターンに分けて再度分析し直しました。また、そのデータをもとに、どれくらいの発電能力の太陽光発電を整備したら、家の中の設備がどこまでまかなえるのかの関係を充足率という形で明らかにすることを試みました。
【小柳】彼らのチームの成果は「平均充足率」という指標を新たに考案したことです。充足率というのは、必要な電力を分母、発電能力を分子としたときに、必要な電力の何%をまかなえているのかを1時間単位で示したものです。例えば夜間、発電していない時間帯は0kWですから、充足率は0%です。この充足率の24時間平均を出したものが平均充足率です。災害時に必要な発電能力を可視化する上で画期的な指標といえるでしょう。これまで私たちは、太陽光発電を設置すれば停電になっても大丈夫だよといわれてきました。ですが、きちんと計算してみると、十分に使えるときもあれば、家族構成や季節によっては足りなかったことが定量的に明らかにされたわけです。
【山口】私たちはほかにも、電力の使い方の工夫についても研究しました。例えば、「湯沸かし機を効率の良い機械に変えたらどうなるか?」とか、「電力消費を抑えるには、家族が1部屋に集まった方がいいのか、バラバラの方がいいのか?」とか。それぞれどれくらいの対策効果があるのかを検証しました。
【小柳】山口くんを中心にチームで独自に考えて検証していましたね。研究として任せられるレベルになってきたな、いいぞと思って見ていました。次は新4年生に研究を受け継いでもらいますが、彼らの研究をベースとしながら発展性のある展開を期待しています。
卒業研究で、人を動かす力が身についた。
——卒業研究を振り返ってみていかがでしょうか?
【山口】卒業研究は4人1組のグループで行います。私は正直リーダーをやるタイプではなかったのですが、メンバーと話し合い、リーダーにチャレンジしてみることになりました。進行管理もリーダーの役目なので、私がみんなの作業の割り振りを考えました。本当のことをいえば、人にお願いするよりは自分でやった方が気が楽な時もありますが、それをせずにいかにみんなで協力して研究を進めるかを考えました。ときには思うように研究が進まないこともありましたが、メンバーに「やる気出して」とは言わずに、自分の姿勢を見せてみんなを引っ張ることを意識しました。先生から厳しい指摘を受けて落ち込んでいるメンバーがいたら、自分がフォローに回りました。卒業研究を通してチームがうまく回るように俯瞰してみることの大切さに気づくことができましたし、調整力が身についたように思います。
【小柳】もともと彼はそういうことが苦手なタイプだったはずなんです。みんなを引っ張る立場になり、とても苦労したと思うけれど、チームをうまくまとめてくれました。私は教員になる前、20年以上企業に勤めていましたが、企業の中で伸びる人と伸びない人は明確に違いがあると感じていました。人を動かすノウハウを身につけている人というのは組織の中でグンと伸びるんですね。いわゆる理系の学生の中には、こうしたことが苦手な人が多いものですが、社会人になってから一生懸命それを身につけようと努力した人が急成長する姿をたくさん見てきました。組織の中にあっては、個人で動くことよりもチームで動くことの方がはるかに多く、それは研究職であっても同じです。学生のうちはひたすら自分が努力をすればいいけれど、社会人になったら人を動かすスキルが必要になってきます。だからうちの研究室では、個人ではなく、チームで研究するというのを約束ごとにしてきました。
【山口】おかげでチームをマネージメントすることを経験できました。4月からは公務員として働きますが、小柳研究室で培ったことを生かせたらと思います。
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