02
13 2023

ガーナと日本。違いの奥にある 共通点が教えてくれること。

経済学部 牛久 晴香 准教授

牛久先生の研究室に置かれているさまざまなデザインや色のかごは、ガーナ北部のボルガタンガの特産品「ボルガバスケット」といわれるもの。このかごを切り口に、人々が地域の生態環境や培ってきた物質文化、社会関係をどのように再編しながら、市場経済や開発援助などの外部からの変化に向き合っているのか、フィールドワークを通じて研究しています。

グローバル化時代の考え方。

–ガーナでフィールドワークを行っているのですね。

大学院時代は計18カ月、その後はコロナ禍を除いてほぼ毎年約1カ月、ガーナにあるボルガタンガを訪ねてきました。現地に着くと、「帰ってきた!」という感じがするほどです。私は、西アフリカ内陸サバンナ、特にガーナ北部を専門とした地域研究を行ってきました。地域研究とは、その地域で起きている現象を地域独自の文化、社会、政治、経済、生態の深い理解に基づき、学際的に研究することを目指した学問。地域独自の特性を理解するには現地で長く生活し、内側からじっくりと知っていかなければなりません。フィールドワークを通じて地域独自の文化や社会を知ることは、私たちとは違う文化や社会を持つ人々の当たり前を知り、自分の当たり前を相対化する作業でもあります。違いをありのままに受け止めつつ、表面的な違いの奥底にあるかもしれない人類の共通点を探ろうとするのが文化人類学です。地域研究も文化人類学も、就職や社会の役には立たない学問に見えるかもしれませんが、さまざまな価値観や異なる文化・社会的バックグラウンドの人々が交わりあうグローバル化時代に不可欠なものの考え方を学べる学問だと思っています。

–先生の研究は、「ボルガバスケット」が切り口とか。

私が地域研究の中で注目した現象が、ボルガバスケットのローカルな生産とグローバルな取引でした。そもそもこのかごは、日本のどぶろくのようなお酒を濾すためのもの。それがブルキナファソの商人の目に留まり、工芸品としてもっとデザイン性を高めるとヨーロッパで売れるのではないかと、さまざまな形やデザインが生まれてきました。2000年代初頭からは外国の企業が直接、ボルガタンガの村に入って技術指導などを行い、高品質・高価格のものが欧米に流通するようになり、日本で流通する商品もバリエーションが広がっています。

–一部はフェアトレード商品として取引されているようですが。

はい。「フェアトレード」は、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することで、生産者や労働者の生活改善と自立を目指す取引の仕組みです。ボルガバスケットの場合も、「普通のトレード」より高い買取価格をフェアトレードでは提示していますが、同時に編み手の「能力強化」を図り「国際競争力」を高めるため厳しい品質基準を設けたり、厳格な納期を定めたりします。新たな販売の選択肢が生まれ、収入増加に少なからず貢献しているものの、すべての編み手がフェアトレードを行う企業にだけバスケットを販売しているわけではありません。なぜなら彼らは、価格だけを基準に仕事をしているのではないからです。皆さんがアルバイトを決める時、時給の高さだけで決めるわけではないのと同じです。フェアトレードを選ばない時もあると授業で話すと、「だから貧しいままなんだ」という厳しい意見も学生から出ます。しかし、貧しいなら金だけを考えて職業を選べ、というのも暴論です。働き方の違いを理解・尊重しつつ、その背景にある職業を選ぶ際の共通性も理解しようとすることで、私たちが無意識に抱いている「発展途上国」への偏見や、他者を尊重しているつもりで自分の物差しで測ってしまっていることが浮かび上がってくるでしょう。

当たり前ってなんだろう?

—ゼミの学生にもフィールドワークの機会があるのですね。

ゼミのテーマは「北海道から考えるグローバルイシュー(一国だけでは解決できないような課題、地球規模の課題)」なので、基本的にはそれに当てはまりそうなテーマを学生に考えてもらって、フィールドワークにも出かけます。2022年度は洞爺湖と有珠山へゼミ合宿に出かけ、それぞれのテーマに合わせて視点を変えるという形で取り組みました。観光とアイヌに興味がある学生が多かったので、この場所を選んだのですが、実際に行ってみると噴火を乗り越え、どう町づくりをしているのかに学生たちの興味が向いて、それはそれで行って良かったなと思っています。

–実際に自分の目で見ることは、大事だとお考えですか?

そうですね。私もそうだったんですが、本を読んで入ってくる知識って、いまいち実感がないというか。自分で見たり匂いをかいだり触ったりして関連させながら蓄えた知識はずっと残るし、それをきっかけに本で言っていることが分かるようになるとも思っています。なので、現場での体験は大事にしていますし、そこで面白いと思ったことを100%応援したいので、テーマ変更も全然OKです。

–先生の体験や研究に基づく話から、学生も新しい価値観に触れられそうですね。

文化人類学のことを教える時には、なるべく日本の価値観と遠い事例を紹介しながら、一見違うものの根底にある人類としての共通性みたいなものを伝えることを意識しています。それによって、自分の当たり前を見直すことにもなり、今の日本社会に息苦しさを感じている学生たちに別の生き方、考え方もあるという気づきにつながってくれたらとも願っています。私も、飛び回っているうちに価値観が変わってきて、あまり日本に向いていない人間になりつつある気がします(笑)。それで、アフリカに行って元気をもらったり、自分が望めばほかの生き方ができることに気づいて気が楽になったり、日本での仕事を頑張れたりもする。それを、学生にも伝えたいなと思っています。また、経済学部はどちらかというと社会科学的な興味を持つ学生が多いので、ただの文化紹介にはならないように、文化が経済や争いに実際どう響いてくるのかを意識して伝えています。

経済学部 牛久 晴香 准教授
[専門分野]アフリカ地域研究、文化人類学、生態人類学 [主な担当科目]国際事情

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