02
27 2023

難しくて美しい 「水」の動きに迫る。

工学部社会環境工学科 鈴木 洋之 教授

土木工学の中で「水工学」と呼ばれる分野の「水理(流れ)」「水文(水循環)」が鈴木先生の専門。小学生の頃から川や水に興味があったそうですが、この分野の学問としての面白さを知ったのは北海学園大学工学部在学中だったとか。「河川・湖沼の流れの理解とその応用や洪水予測」などをテーマに研究に取り組み、2022年度からは本学部で”後輩”たちの指導にも当たっています。

この学部が原点。

–研究対象は河川、湖沼。興味を持ったきっかけを教えてください。

小学校の授業で、河川は放っておくと蛇行し、これが進むと三日月湖が形成されると聞き、不思議な魅力を感じたことがきっかけの一つです。また、水遊びも好きで、庭の水道ホースから水を流しては土が削れていくのを見たり、土で作ったダムで水をせき止めたりしていました。実は大学で学ぶ河川工学の本質は、この遊びとまさに同じです。もちろん子どもの頃は面白くて遊んでいただけで、自分の興味が河川工学という分野の学問だと分かったのは、本学部で学んでからでした。

–先生にとって水工学の魅力はどんなところなのでしょう?

まずは、難しいこと。流れの方程式というのは1個しかないのですが、まだ誰も解いていません。シミュレーションなどで近似解は出せますが、理論解は出されていない。水の動きには簡単に解き明かせない難しさがあり、そこが私にとっては面白さです。もう一つは、水の美しさというか、流れの魅力。川だったり、街の中にある壁を伝い落ちるような水の模様だったり、水が見せる動きはすごくきれいで見ていて飽きることがありません。さらに、水文は水循環のことなので、小さいスケールのものから大きく言えば地球規模まであり、幅の広さも魅力だと思います。

–本学部時代に、学問の面白さにも触れたとか。

そうですね。大学生になったことを機に、しっかり学ぼうと奮起したんです。本来は指定された教科書1冊で学ぶわけですが、私の場合は図書館へ行って、例えば水理学の本を10冊ぐらい借りて読みました。同じ内容でもすごく分かりやすい書き方の本と分かりにくい書き方の本があり、読み比べていくうちに暗記ではなく理解に変わった。要は考えること、理解することなんだと、高校までの「勉強」とは違う「学問」の面白さに気づいたんです。先生たちから学ばせてもらったことも、もちろんたくさんあります。その後の外部の大学院での恩師は大きな存在ですが、学部時代の先生も私のものの考え方や判断に大きな影響を与えてくれました。

–今の主な研究テーマは?

ダム管理です。ダムには防災・水資源の確保という役割がありますが、これによって我々が受ける恩恵は非常に大きく、例えば札幌市には定山渓ダムと豊平峡ダムの2カ所の水がめがあるため水不足を経験したことはありません。また、気候変動は将来降雨量の増大をもたらすといわれており、水害対策がさまざまなところで議論されています。そこで、既存ダムの有効利用は重要な選択肢の一つなのですが、実現するためのダムの運用方法がまだ確立されていないため、これを考えられれば効果の高い気候変動適応策のスキームになると思っています。

思考力と向上心。

–研究室の学生は、どんなことを卒業研究にしていますか?

一つは、数学を使った理論を駆使するようなテーマ。雨が降ってどれだけ川に水が出ているのかというモデル化に、データ同化という新しい情報処理の技術を取り込んで、より良く現象に合わせられるようなスキームをつくっています。ほかには、現場で長期で観測してきたデータを解析し、そこからいろいろな現象を抽出しています。研究活動を通して身につけてもらいたいことの一つは、数学の解析能力です。若いうちに数学のトレーニングをどれだけするかで、能力が決まると考えているからです。数学とは理論、理路整然とした説明なので、矛盾なく説明していくというトレーニングにもなります。専門分野で役立つだけでなく、将来的に直接は使わなかったとしても、数学を通した思考のトレーニング的なものは絶対に効いてくると思うんです。

–ほかに、研究活動で身につけてほしいのは?

私の研究室では、現地計測と解析が主な研究手法です。自然の中で計測された複雑なデータの中から、理論的に本質となる現象を見出すスキルを身につけてほしいと思います。そして、現場を見る能力。現場を見た時に、ここで何が起きているんだろう、洪水が起きて水かさが増した時にどうなっていくんだろう、と現象をイメージできるようになってほしいんです。それには、現場に行かなければなりません。一つでも経験しておくと、身につけたセンス、感覚はほかの場所でも発揮できるはずです。新しい研究室なので、現場を見る能力が鍛えられるようなテーマを次に立ち上げていきたい。情報収集をして、道内のフィールドも検討していくつもりです。また、技術者には思考力と向上心が必要です。自分で考えられるということが絶対条件で、これでいいやとか妥協する思考になってしまうと、どういう世界に行っても成長できないと思います。ですから、少しでも自分を高めるという意味での向上心を持ってもらいたいと考えています。

—母校で教壇に立つのは、楽しいそうですね。

学生はみんな後輩なわけですから、教えるのが楽しいし、前職には失礼ですが熱意も違ってきます。少しでも上に行ってほしいとも思います。何をもって上かというのはいろいろあるものの、自分で言うのもなんですが、私のキャリアは後輩たちに一つの道しるべを示せたと思っています。大学院進学は結局は本人の頑張り次第ですが、背中を押してくれる人がいるといいですよね。ですから私も、当時の先生たちがしてくれたように、大学院で学びたいという学生がいたら背中をどんどん押すつもりです。私の経験談が、学生がうまく開花するきっかけになればいいなと思っています。

–ちなみに先生は、どんな大学生活を過ごしていらっしゃいましたか?

大学生になってからは、自分を高めることを何でもやろうと思っていました。意識したのは、時間を無駄にしないこと。学生にはよく「寝て過ごすのも良いけど、寝るなら寝るんだと意識して寝なさい。あの時は何をしたと答えられる時間の使い方が大事!昨日何をしてましたかという問いに、『寝てました』ではなく『寝てしっかり休みました』と明確に答えられるようにすることが大事」と言っていますが、それを実践した4年間でした。とにかく4年間をフル活用しようと考えていました。また、大学の友人と集まって遅くまで遊ぶことも多かったですが、それだけではなく、いろいろな人に会うことを意識しました。社会人のサークルに参加して年上(といっても今の自分より若いですが)の方々と会話したり、ご飯を食べさせてもらったり、他大学で友人をつくったりとずいぶんいろいろなことをしました。私は第2次ベビーブーム世代で、人口ピラミッドの突出した世代です。大学で将来が決まる、入学したら遊んで過ごすという社会的雰囲気だったと思います。でも、サークルで知り合った社会人や他大学の友人の話を聞いて、大学の勉強は自己研鑽(当時はそんな言葉は使いませんでしたが)であり、やればやるだけチャンスが広がる。勉強していない大学生であれば、どこの大学でも勝てるなと思った(笑)。そうなると、自分を高める大事な道具の一つとして「学び」が挙がるわけです。同時に、大学の勉強が高校の勉強と同じであるわけがないということを意識したのが大きかったと思います。

工学部社会環境工学科 鈴木 洋之 教授
[専門分野]水理学・水文学  [主な担当科目]水理学Ⅰ・演習、水理学Ⅱ・演習、流れ学B・演習、河川工学

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