リアルな世界と経済学の 相互を往復して考える。
「経済理論と実態の隔たりを埋めるためには、双方を行き来しながら学ぶ必要があります」と話すのは、2023年に着任されたばかりの土橋康人先生。大学での座学と北海道の地域に出向くフィールドワークの双方から経済を学び、社会問題を見つめなおす地域経済学科に、「財政金融政策」という新しい切り口が加わりました。
理論と現実の隔たりを埋める。
–経済学を学ぶおもしろさは、どんなところにありますか?
世界や北海道の「リアル」な実像に迫れることが、魅力の一つではないでしょうか。近年、経済学に対する世界の目は厳しさを増しています。アメリカやヨーロッパでも、学生などから経済学に対する不信や要望が表明されています。それは、エレガントに作られた経済理論や細密な統計分析が進む一方で、広がる経済格差や貧困をはじめ、2008年のリーマンショックのような世界的規模の金融危機に対し、経済学は有効な処方箋を提供できていないのではないかという疑念が持たれているからです。能力のあるエコノミストたちが発展させた経済理論があるのに、こんなにも社会課題を抱え続けなければならないのかと問題意識が持たれているんですね。経済理論は仮説を立てて構築していくものですが、僕らも感じている通り、経済を形づくる人間の行動は実に複雑です。その複雑さも含めて経済理論にするのは非常に難解なことでもあります。ですから、現実や実態をふまえて経済理論を批判的に検討しなければ、格差や貧困、金融危機といった問題はずっとつきまとい続けてしまう。この経済理論と実態の隔たりを埋めるためには、リアルな世界と経済学の相互を往復して考える必要があると思います。
–北海学園で経済を学ぶおもしろさとは?
その点、北海学園大学経済学部には、多様な座学とフィールドワークの双方から経済を学び、さまざまな社会問題を見つめ直す機会が豊富に用意されています。特に地域経済学科が行う地域研修は、学生が主体的に地域の社会課題を発見し、現場の実態を調べ、新たなソリューションを模索していくというほかの大学にはないユニークな学びの場ではないでしょうか。また、ほかの学問領域を横断するような授業を通して、多くの視点を獲得できることも魅力ですね。
–先生が研究されている「財政金融政策」とは?
私は、主にイギリスとアメリカの財政金融政策について研究しています。具体的には、国際金融や国際経済関係と、各国政府が行う財政金融政策がどのように関連しているのか分析する研究です。財政と金融は、これまであまりコミュニケーションが取られてこなかった分野でした。しかし世界を見れば、金融市場と財政政策は互いに影響を与え合っている。そこを直視する人が少なかったので、イギリスを中心に、金融市場の利益をどのように活用しながら財政政策を構築していったのか研究しています。この研究を通じて、近年、頻繁に用いられている「新自由主義」という概念、自由競争を促して経済を活性化させる思想の再検討も行なっています。「新自由主義」といわれる個々の政策の特徴に関する共通認識はあるものの、多くの研究者が納得する包括的な概念や定義がないんです。ほかには、国際政治経済学や財政学、現代政治経済史、イギリスの住宅政策や所得保障政策、地方財政の研究なども行っています。
–経済学を学ぶ社会的意義とは?
現代政治経済のメカニズムを解明し、複雑な社会問題の原因と対策を考察するために必要な知見を蓄えることです。何らかしらの社会的課題に対する処方箋を提供するためには、「病気」の原因を探り、さまざまな「薬」の組み合わせを考える必要があります。しかし、これは大変複雑な作業です。多様な人々によって形成される社会、すなわち「身体」を蝕む病気の原因には、多くの要素が関連しますし、薬が引き起こす副作用を予測することも容易ではありません。例えば、先進国における貧困について考えてみましょう。この貧困の原因には、教育、就労、所得保障を含む社会保障制度、地域の産業、住居環境、人種、家族構成、人々の意識に代表される社会文化的要素など、さまざまな問題が関連しています。その状況に対し、仮に低所得者層に対する給付金という薬を処方したとしても、問題の根本的な解決にはなりません。政治的対立や財政問題、そして支出規模によっては、国際金融市場を巻き込んだ大きな副作用をもたらす可能性すらあるのです。それでは何が必要なのでしょうか? 重要なのは、物事を取り巻くメカニズムを理解して、病の原因に接近し、薬の適切な組み合わせを選んで治療に役立てること。そしてもう一つ関連してくるのが、現代政治経済のメカニズムを考える上で避けられない概念の一つである「新自由主義」なんです。この概念を再検討し、そのメカニズムについて理解を深めることができれば、現代の日本や多くの先進国が抱える「病」の複雑な原因と、それに適合した新たな選択肢を提供できるはず。これが私の研究の意義の一つだと考えています。
あなたの関心事と経済は繋がっている。
–学生たちはどんな興味を持っていますか?
着任して半年なので、基礎ゼミでは自分の考えを体系的に伝えるコツを学び始めたばかりです。学生の興味は多方面にわたっており、北海道の水産業に興味を持つ学生もいれば、サブカルチャーが生み出すお金の利益、ヤクザの文化、子どもの貧困や女性の働き方まで実にさまざま。仮に、ビートルズが好きだったとしましょうか。ビートルズは世界的に受容され、彼らのファッションを含めて人々の消費活動に大きな影響を与えましたから、経済学としてビートルズを捉えることもできる。経済学は非常に広い学問ですから、みなさんが関心を持っているどんなワードも経済に繋げて考えられるおもしろさがあります。
–高校生に伝えたいことは?
勉強したいテーマが見つかっていない高校生も、安心して飛び込んできてください。皆さんが学びたい「何か」を見つけるための、手助けができる大学だと思います。大学時代は、熱中できることを全力で見つけることが、なによりも重要です。勉強だけでなく、サークルや遊びでも、夢中になれることを発見する絶好の機会。それが、将来の職業や人生の大きな部分に関連したら、こんなにも幸せなことはありません。とはいえ実際のところ、熱中できることを見つけ出すのが難しいのも現実です。もし、何もやりたいことがない、あるいは無我夢中になれることが分からないという場合には、コツコツと勉強をしておくのもいいでしょう。そうすれば、「これだけはやりたくない」ということを将来回避できる可能性が高まりますし、急にやりたいことが見つかったとしても、それまでの勉強を生かせる場面がたくさんあるはずですから。
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